第九話「告白」

カーターはようやくポスターを配るお店も、あと10件と少なくなり、

自転車を押す足取りも軽やかになっていた。

彫刻が施された白い柱が特徴の、お店『キャンディポット』の前に着くと、

自転車を停めた。

キャンディポットは、ペットのオシャレな洋服のお店で、

双子の姉妹とその親友3人で経営していて、

洗練されたデザインが人気のお店だ。

カーターは残り少なくなったポスターを前かごに丸めて移し、

その中から一枚取ると、ドアをノックした。

「はいはい。今開けますね。」

と中から声が聞こえ、ドアの前で待っていると、

白いフェイクファーで縁取られた赤いフードケープを着たチワワが、

目の前ににょきっと顔を出した。カーターはびっくりしていると、

「カーターさんいらっしゃい!メリークリスマスイヴ!」

とアテレコのように言った後、ドアが全部開き、

チワワを抱っこした女性が現れた。

「ちょっとエミリー、カーターさんリアクションに困ってるよ!」

と後ろからクスクス笑いながら、もうひとり女性が出てくると、

カーターもつられて笑い、

「そんなことないです!エミリーさん、ミアさん、

サンタのキャンディちゃんこんにちは!」

と言って、キャンディちゃんを撫でた。

「ミア、多分ニナさんが言ってたポスターだね!」とエミリーが言うと、

「そうです。目立つところに貼って頂けたら嬉しいです。」

と言って手に持っていたポスターを渡した。

「今日はお二人姉妹だけなのですか?」

と店内を見渡していうと、

「今日ナタリーはモデルさん連れて、カルラさんと撮影に行ってるんです。」

とエミリーが言うと、ミアも頷き、

「新しいデザインの洋服の新年用のカットを撮り忘れてしまって、急遽ね。」

と言って、棚に商品を並べながら言った。

「アリスの庭ですか?実はカルラさんにも渡さないと行けないので…。」

と言うと、エミリーとミアは頷き、

「多分トランプ庭園のところにいると思います。」

と言うと、試着台のすぐ横の壁にポスターを貼り始めた。

「助かります!ありがとうございます!」

と言うと、カーターは手を振り、自転車に戻った。

キャンディちゃんはウィンドウディスプレイに設置されている、

季節で変わるフォトブースのソファにちょこんと座りながら、

ガラス越しにカーターを見送った。

 ジャンポールはお店のドアに

「お昼のため戻りは1時ごろです。」と書いた貼り紙を貼ると、

作業場の通路から自宅に戻って行った。

プックはジャンポールの足音にすぐ気づき、寝ていたソファから飛び降りると、

作業場へのドアをカリカリ手でかき始めた。

ニナはドレの捜索ポスターに、クロウディアさんと連名で、

自分の連絡先も載せていたため、早速ポスターの効果が出始め、

かかってくる電話に対応していた。

「はい、なるほど、その子は違う子だったのですね。

いえいえ!とんでもないです!

情報を頂けただけでも嬉しいです。はい、頑張ります。

ありがとうございます。」

ニナは電話を切り、ドアの方を見ると、

ジャンポールがちょうど入ってきたところだった。

プックは嬉しさのあまり部屋中を駆け回り、プルルと変わった声を出して興奮している。

「お帰りなさい!エマちゃんの品物はわかるように置いてくれた?」

とプックを捕まえて頬擦りしているジャンポールに聞くと、

「うん、レジカウンターの予約品の棚に名前付きでわかるように置いてあるよ。

プックや、ただいま!待ってたかい?あたっ!ははは!」

と耳をカプっとされて笑っている。

「ジャンポール、それ今は赤ちゃんだからいいけど、

続けさせたら危険よ!

この前フィリップさんにもやろうとしたんだから!」

と言うと、ジャンポールはプックの顔を見て、

「それはいけないね!」

と抱き上げて言った。

プックはキョトンとした顔をして見ている。

ジャンポールはニナに向き直ると、

「そうだ今日はお昼はいらないから先に食べて良いからね。」

と言ってプックを抱っこしたままソファに座った。

「毎年恒例のフィリップさんとニコカフェね!大丈夫。わかってるから!」

とニナがにっこりして言うと、ジャンポールは頷き、

「そういえば家でまでフィリップをフィリップに『さん』って呼んでるけど、

もしかしてまだあの時の冗談を引きずっているのかい?」

と心配そうな顔をした。

「そうだった!サラが余りにもフランクなフィリップを心配して、

箔をつけた方がいいから、しばらく『さん』付けで呼ぼうって言ってから、

すっかり癖がついちゃってたわ!フィリップ勘違いしてないかしら?」

と言うと、ジャンポールは笑って、

「やっぱりそうか!まぁ、あの男が気にするわけはないよ。大らかで僕と違って小さなことは気にしないからね。でもそれを聞いて安心したよ。」

と言うと笑ってプックに頬擦りをした。

プックはじーっと耳を見ているが、

ジャンポールは「ダメだよ」と口元に手を優しく当てた。

プックはその手をペロっとすると、ジャンポールは抱き上げ、

「よーし!いいぞプック!その調子だ!」

と言ってぎゅうっと抱きしめた。

ニナはその様子にクスッと笑い、

「フィリップは何時ごろ来るの?もしかして現地集合?」

と聞くと、ジャンポールはいや、午後1時頃にお店に来てくれることになったよ。

と言うと、何やら思い出したように紙袋を取り出し、

テーブルに置いた。

「これこれ、忘れるところだったよ。」

と言い、鞄にしまった。

「今年は何をプレゼントするの?」

とニナが聞くと、

「それが何やらフィリップは、今年はすごいものを用意したと息巻いていてね、

それに見合うかどうかわからないけど、色々考えて手作りにしたんだ。」

とジャンポールは答えた。

「凄いじゃない!2人のプレゼントが何か気になる!わかったら教えてね!」

と言うと冷蔵庫を開けて中を見た。

「あ、そうだ昨日のマフィンのタネ、実は少し余っちゃったの。

焼いとかないとね。」

と言ってオーブンを予熱した。

ジャンポールは時計を見ると、

「もうすぐ来るかな。」と言ってプックを連れてお店で待つことにした。

作業場に着くと、お店を覗いている影が見えた。

「おや、エマちゃんたちもう見えたのかな?」と言いながら、

プックを作業場のソファに乗せ、お店のドアに近づくと、

ジェームスとマックスの姿が見えた。

「おお!これはこれは!びっくりしました!」

と言いながらドアを開けると、

ジェームスは

「お昼休み時間に来てしまってすみません!

どうしても改めてお礼を言いたくて。」

と言いながら入ってきた。

マックスは作業場から走って足元に来たプックを抱っこした。

「プック!」と嬉しそうに顔の前まで抱き上げると、頬擦りをした。

「あ、マックスくん耳気をつけて!」

と言うジャンポールにプックとマックスはキョトンとした顔で見ている。

「いや、耳を甘噛みする癖があってね、あれ、よくしなかったね。」

と言うとプックを覗き込んだ。

ジェームスは笑いながらプックを撫でると、

「ここに来てびっくりしましたよ。まさかジャンポールさんは、

人形やぬいぐるみの職人さんだったなんて。」

と言うと、お店を見渡した。

「ははは、レジーちゃんを拾った時に言おうか迷いましたが、

なんだか厚かましいのではと思って、言わなかったのです。」

と言うと、ジェームスはガラスケースの中を見て、

「いやあ、凄いです。もはやこれは芸術作品ですね。」

と言うと、マックスもプックを抱っこしながらお店の中を見始めた。

ジャンポールはマックスを見ると、

「ごめんねマックスくん。びっくりしたでしょう。

すっかりペットゲートを忘れてしまって、

プックを受け止めてくれてありがとう。反省しないといけないね…。」

と言うと、自分の頭をコツンとした。

マックスはにっこり笑うと、

「…大丈夫。プック好きだから。可愛いね。」

と恥ずかしそうに言った。

「ありがとう。プックも君が大好きみたいだね。」

と言うと微笑み返した。

ジェームスはジャンポールをじっと見ると、

「実はジャンポールさん、奥様のマフィンなのですが、

レシピとかって教えてもらえたりしないでしょうか…?」

と遠慮がちに聞いた。

「ニナのマフィン?大丈夫だと思いますよ。

丁度今残りを焼いているところだから、聞いてきましょうか?」

と言って、プックを抱いたままのマックスとジェームスを呼び、

店の外に出た。

ジャンポールは貼り紙はそのままにし、

少し離れた場所にある自宅のドアの前に誘導した。

「店の中からも家には行けるのだけれど、

ニナは通路から沢山の人が入ってきたらびっくりすると思うから、こっちから…。」

と言いながらドアを開けた。

「やあニナ、素敵なお客さんを連れてきたよ。」

とジャンポールが言うと、テーブルに大きな男が座ってこっちを見た。

「やあジャンポール、ここにも素敵なお客さんがいるよ!

あと作り直してくれたリースのカードも受け取ったよ!」

とフィリップは言うと、豪快に笑った。

 「フィリップ!やっぱり早く来たか、

君はいつも行動がはやいからね、お店で待っていたんだよ。」

とジャンポールが言うと、ニナは嬉しそうに

「こっちで待っていたら、

ジャンポールがきっと驚くねって言ってたところだったの!」

と言ってクスクス笑った。

ジャンポールは2人を見て、

「いやぁ、やられたな。」と言って笑うと、

「じゃあ僕からのサプライズ」

と言ってジェームスとマックスを家の中に案内した。

「まぁ!これは本当にサプライズ!」

とニナが言うと、フィリップも2人を見て、

「これはこれは!昨日までうちのホテルに泊まっていた方だ!」

と言って嬉しそうにした。

ジェームスはびっくりしながら、

「あのホテルのオーナーさんですか?

素晴らしいホテルでした!大満足です!」

と言って握手を求めた。フィリップは立ち上がり、

「それは良かった!」

と言って強く手を握り返した。

マックスはホテルのオーナーと聞いて、不安そうな顔になっていた。

プックはマックスの表情を読み取ってか、

心配そうに顔をペロペロ舐めた。

「あら!プックったらマックスくんと仲良しなのね!」

と言うニナを見て、

ジェームスはマックスの背中をポンと押して、

「マックス!ほら、言ってご覧なさい!」

と言うと、マックスはプックを見ながら、ニナに近づき、

「…あの、マフィンありがとうございました。….美味しかったです。」

と小さな声で言った。ニナは嬉しそうに

「まぁ!嬉しい!今、丁度残りを作っていたの!」

と言ってオーブンを見た。

ジャンポールはニナに、

「レシピを教えてほしいとジェームスさんが。」

と言ってにっこりすると、

ジェームスが焦って、

「すみません。レシピなんて簡単に教えてもらえるものではないのは重々承知なのですが、

亡くなった妻が作る味に似ていたので、どうしてもと思い、

頼んでしまいました!」

と申し訳なさそうに言うと、マックスも下を向いた。

プックはマックスの顔を覗き込んでいると、

ニナとフィリップはみるみるうちにうるうるとした目になり、

「勿論です!!!!」「教えてあげて!!!」

と2人の声が重なった。

ジャンポールは2人を交互に見ると、プッと吹き出し、

ジェームスも続いて笑った。

「ジャンポール、ニナ、僕はスーザンを亡くしてるからさぁ、

気持ちがよく分かるんだよ。

スーザンの手料理に似た味を食べれるなら、今だってどこにでも行くよ。

少年!来なさい!ここにほら!」

とフィリップは言うとポロポロと涙を流し両手を広げた。

ニナは何度も頷き、涙をティッシュで拭った。

マックスは戸惑いながらも、涙ぐむジェームスに背中を押され、

プックを抱っこしたまま行くと、

フィリップはプックごとガシッと抱きしめ、

「少年、ニナが昨日君にあげたから、僕がマフィンを貰えなかったと知って、

ちぇってさっき言っちゃったんだけど、ごめんね。

少年にマフィンが行ったのは偶然じゃなくて必然だったんだよぉ…。

少年、強く生きよう。

君は運命に愛されているに違いないよ。」

と言うとフィリップは再びボロボロ涙を流しながら強く抱きしめた。

プックとマックスはされるがままになっていたが、あったかい気持ちが伝わり、

マックスは笑顔になった。

「さあ、もうすぐ焼けるぞ!座りなさい!」

とフィリップがオーブンを見て言うと、ジェームスとマックスは椅子に座った。

プックはマックスに抱かれたままじっとしている。

「あと1分!59!58!57!」

とカウントダウンするフィリップを見て、ジャンポールがマックスに、

「どっちが子供かわからないな。

あと1分からカウントって長すぎやしないかい?」

とボソッと言って笑った。

マックスもフィリップを見て思わず笑うと、

プックを撫でて下を向き誤魔化した。

「ピーーーン!」

とフィリップの大きな声とオーブンのアラームの高い音が重なった。

フィリップはプックを見て、

「出来まちたよプックちゃん!少年!楽しみでちゅね!」

とはしゃいでいる。

ニナが早速オーブンからマフィンを出し、お皿に取り分けると、

「焼き立ては熱いから気をつけてね。」

と言ってみんなに配った。

ジェームスはレシピノートを渡され、それを見ながらマフィンを頬張り、

どれがシンシアの味なのかを探った。

「ニナさん、焼き立てはさらに妻の味に似ています。あの、

このワサンボンってなんですか?」

と聞くと、ニナはひらめいた顔をして、

「私のマフィンの決め手はこの日本のお砂糖なんです。

和三盆っていうお砂糖で、商店街の和菓子屋さんで手に入れてるんです。

きっとそれだわ!」

と言ってパンフレットを取り出し、商店街の地図にある、

『寅印和菓子店』と書いてあるところにペンで丸をした。

「そういえば妻は日本食や日本の食材に凝っていた時期があったので、

毎週日曜日になると、日本食材を買いに行ってたことがあります!

思い出しました!」

と言うと、

「まあ!きっとそうですね!和三盆!使っていたのかもしれないですね!」

と言うと、にっこり笑った。

マックスはマフィンを食べるのを遠慮していたら、ジャンポールが隣にすわり、

「食べないのかい?遠慮はしなくていいんだよ。」

と言った。するとマックスはポロポロと泣き出し、

ジェームスやフィリップも慌てて、

「どうした?大丈夫?」と声をかけると、

嗚咽を上げながら泣き始めた。

ジャンポールが背中をさすり、ニナやジェームスも心配そうに見つめると、

プックが涙をペロッと舐めた。

「ホテルのオーナーさん、…ごめんなさい。

僕、…僕無断で猫トイレと食器を借りてしまいました。

黙っててごめんなさい!」

とボロボロ泣きながら謝った。

ジェームスはびっくりしてマックスを見ると、

今朝の態度の理由がやっとわかった気がした。

ジェームスはフィリップに向かい、

「息子がすみません!」

と謝ると、フィリップは2人に向かって

「やめてやめて!いいんだよ。大丈夫だからね。ほら、泣かないで。

怒ってないよ。お手紙にも書いてあったからさ。

そうか、あの手紙は君からだったんだね。」

と言うと、マックスの肩にそっと手を置いた。

マックスは泣きじゃくりながら、

「ぬいぐるみのっためなんて…言えっ…な..て…」と言うと、

ニナはホットチョコレートを入れ、テーブルに置くと、

「マックスくん、勇気がいったね。偉かったね。」と言って、

ジャンポールと一緒にマックスの背中を優しくさすった。

ジェームスはその様子を見て涙ぐむと、

「ごめんなさい。親なのに知らなかったなんて、情けないです。

でも、ありがとうございます。」

と言った。

マックスはジェームスに

「パパごめんなさい…。」

と泣いていると、どこからか、

プゥ!と音がした。

マックスは顔をあげると、

「くさっ!」と言ってプックを持ち上げた。

プックはキョトンとしているが、

みんなが一瞬止まり、顔を見合わせると、

大声で一斉に笑った。

マックスもプックを見て、思わず涙も止まり、声を出して笑っている。

「いや!プックちゃん大物!さすがだなぁ。」とフィリップがプックを見て言うと、

ジャンポールは「本当にやるなぁ。」

と笑顔でおでこをツンツンした。

マックスはホットチョコレートを飲み、ようやくお皿にあるマフィンを頬張ると、

ニナに向かって満面の笑みで、

「美味しい!」

と言った。ニナは何度も頷くと、

「よかった!うん、よかった!」

と言って、涙ぐんだ。

フィリップもそれを見て負けずに頬張ると、

「美味しい!」と言った。

ニナはプッと笑うと、

「はいはい。よかったよかった。」

と笑いながら答えた。

フィリップは入れてある紅茶を飲み、

何やら複雑な顔をしながら、腕を組むと、

「今回は僕も勉強になったよマックスくん。

トイレとか貸し出してほしいって言えない人のためにさ、

最初から置いておこうかなぁ?

ご自由にお使いくださいみたいにしてさ。

あ、でもそれじゃ犬の飼い主さんは困るか。」

と色々考え始めた。

マックスはココアをごっくんと飲み込み、冷静になると、

「実は僕、トイレとお皿、クローゼットに置いていたんです。

ご飯もレジー用にホテルのペットフードバーからお皿に貰って、

お水も置いておいて…。

そしたらパパと出かけて帰ってきたら、ご飯も食べてて、

お水も飲んだ後があって…あと…トイレにあったんです。」

と言うとモゴモゴした。

「うん?」とジャンポールが顔を覗き込み、

ニナもマックスを見ると、ジェームスが我慢できずマックスに聞いた。

「何があったって?」

と言うとマックスは言って良いのか悩んでいる様子でもじもじしている。

フィリップは手をパン!と叩くと、

「うんちがあったんじゃない!?」

とひらいめいた顔をして大声で言うと、マックスは恥ずかしそうに頷いた。

「えー!」と驚くジェームスに、ジャンポールはニナに目線を送ると、

ニナは真剣な顔になり、

「何号室に泊まっていたのですか?」

とジェームスに聞くと、

「316号室ですが…?」と何だかドキドキしながら答えた。

ニナはひらめいた顔をしてジャンポールの肩をポンポン叩くと、

フィリップはキョトンとしている。

ニナとジャンポールは2人して頷くと、

「ドレちゃんだ!」

と声を合わせながら言った。

  商店街を両親と手を繋いでスキップするように歩くエマは、

もうすぐルーシーのぬいぐるみに

会えるとワクワクしていた。

「ルーシーちゃん♪ルーシーちゃん♪もうすぐ会えるねルーシーちゃん♪」

と歌を口ずさみながら、ジャンポールトイショップに向かっている。

「そんなスキップすると食べたばっかりだから、気持ち悪くなっちゃうわよ。」

と母親が心配そうにエマに言うと、父親はエマの手をギュッと強く握ると、

エマもギュッと握り返し、ケラケラ笑った。

「本当にご機嫌だねエマ。嬉しいのが伝わってくるよ。」

と言うと、貼り紙のされているジャンポールトイショップに着いた。

「あれ、まだ開いてないのかな?」

と父親が覗き込むと、エマはドアのガラス部分に顔を近づけて覗き込むと、

「すみませーーーん!!」

と大きい声を出した。

母親が貼り紙を見ると、

「あなた、1時に戻りますって書いてある。」

と言うと、腕時計を見た。

「10分前に着いてしまったか、少しその辺を散歩してみる?」と提案するが、

エマはどうしても早くルーシーが欲しくて、

「すみませーーーん!!!」と大きい声を出した。

すると、隣の花屋『ミモザ』の女性店主が現れ、「どうしました?」

と出てきてくれた。

「すみません、少し早く来てしまって、娘が待ちきれず呼んでしまって…。」

と言うと、女性はにこっと笑い、

「ジャンポールとニナはこの裏に住んでるので、呼んできますよ!」

と言って、パタパタと裏の方に行き、チャイムを鳴らした。

「はーい!」

とニナが出ると、

「あら!エレノア!マフィン食べていく?」と嬉しそうに出ると、

エレノアは

「お客さんみたいよ!」

と言うとエマたちの方向を見た。

「まあ!エマちゃんたち!すぐ行くわね!ありがとう!!」

と言って慌てて戻っていった。

エレノアはお店の前に戻ると、

「今開けるみたいです!」

と言って微笑んだ。

「すみません!ありがとうございます!」と母親が言い、エマも大きな声で、

「ありがとう!」とぴょんぴょんすると、父親もお礼を言った。

エレノアは微笑みで返すと、花屋に戻っていった。

少しすると、ガチャっと音がしてお店のドアが開き、ニナが出てくると、

「ごめんなさいねー!お待たせしてしまって!」と言って貼り紙を取った。

「いえいえ、早く来てしまったので…。」

と父親が申し訳なさそうに言うと、中に入っていった。

ニナがレジカウンターの棚から

“エマ”と書かれたタグのついたギフトバッグを取り出すと、

エマは前のめりになってカウンターで待っている。

父親がニナから受け取ると、エマの前にしゃがみ、顔をじっと見つめて、

「さあ、どうぞ。お姫様。」

と少しかしこまりながら渡した。

エマはお澄ましして、スカートを両手で持ち、お辞儀すると、受け取った。

「ありがとう!!パパ!ママ!」と言うと、

本当に嬉しそうな笑顔で両親を見つめた。

ニナはにこにこして見ていると、

「ここで開けてもいーい?」

とエマはもじもじし始めた。

父親は母親を見ると、少し笑いながら、

しょうがないなという感じで母親は頷いた。

「やったー!!」

とエマは歓喜の声をあげると、

リボンを解いて中から淡いピンク色のぬいぐるみキーホルダーを取り出した。

「ピンクのルーシーだー!」

と言って、抱きしめると早速ポシェットにつけた。

金具についている鈴の音がシャランとなると、

エマはくるくる回って嬉しそうにしている。

両親はニナを見ると、

「急なオーダーでしたのに、ありがとうございました。

旦那さんにもお伝えください。」

と言うと、

後ろからジャンポールとフィリップ、

そしてジェームスとマックスがやってきた。

「こんにちは!エマちゃん、ルーシーは気に入ったかい?」

とジャンポールが言うと、エマはカバンにつけたキーホルダーを見せると、

「うん!ありがとう!もうつけたんだ!」

と言って鈴を鳴らしながら得意げに一回転した。

プックはマックスの腕の中でジタバタし始めたが、

マックスは落ち着かせながら抱っこしなおした。

ジャンポールはエマに向かって小さく拍手をすると、

「とっても可愛らしくて似合っているね。」

と笑顔で答えた。

フィリップはジャンポールの肩をポンポンと触ると、店内の時計を指さした。

「ああ、時間だね。

みなさん、僕たちはちょっと出かけてきますのでこれで。」

とジャンポールが言うと、エマ一家とジェームス親子は、

それぞれお礼を言うと手を振った。

「さあ行こうか!今年はどっちが勝つかな!」

と言ってワクワクした様子で手を振ると、

何やら楽しそうに言い合いをしながら歩いていった。

 ジェームスはニナに貰ったレシピを確認していると、

「早速、和三盆を買いに、『寅印』に行ってみます!

今日は本当にありがとうございました!」

と言って握手をした。マックスも「ありがとう。」と言うと、

腕の中のプックを見つめた。

エマはマックスがプックを抱っこしていることに気づくと、

「ミニルーシー!」

と言って駆け寄った。プックはキーホルダーの鈴の音に気づき顔を向けながら、揺れる鈴に夢中になっている。

マックスはエマにプックを抱き上げながら見せると、

「この子はプックだよ。ルーシーは君の家の子?」と聞くと、

エマはプックを撫でながら小さく頷き、

「うん、ルーシーはエマが病院にいる時にお空に行っちゃった子!

会えなかったけど、また会えるようにここに来たの。」

と言って、ポシェットにつけたルーシーを撫でた。

「わ!それ可愛いね。」とマックスが誉めると、

シャンシャンと鳴る鈴にプックはまだ夢中になっていた。

「ここで作ってもらったの!お兄ちゃんの背中にいる子も可愛いね!」

と言って、にこっと笑うと、マックスのリュックに入ったぬいぐるみを撫でた。

「ありがとう。」

とマックスが言うと、

「お兄ちゃん、虹の泉の絵本読んだ?」

と聞くと、マックスは首を横に振り、

「ううん、まだなんだ。」

と言った。エマはプックを撫でながら、

「今日絵本を読んでくれるところに行くから、お兄ちゃんもくれば良いのに!」

と言うと、マックスはポケットに入れていたチケットを取り出すと、

「これかな?」

と言ってエマに見せた。

「うん!それ同じものエマも持ってる!」と言うと、

ポシェットから同じチケットを取り出して見せた。

プックはエマのチケットをパクッとしようとしたが、狙いが外れると、

キョトンとした顔で首を傾げた。

エマは「びっくりしたー!」と言ってマックスを見ると、

2人はケラケラ笑ってプックを撫でた。

こうしている間に、ジェームスとエマの両親はすっかり意気投合し、

お互いがコテージヴィレッジに民泊していること、

亡き愛猫や愛犬のために虹の泉に来たことなどを話していた。

ニナはお店の中に心地よく響く笑い声に、幸せを感じ、

彼らの様子をにこやかに見ていた。

 ジャンポールとフィリップは、コーヒーショップ『ニコカフェ』に着くと、

マスターのレオンを探した。

2人とレオンは大の仲良しで、

ジャンポールがマルフェットのお里に戻ってからは、

毎年イヴに3人でポーカーをすることが恒例となっている。

賭けるのはお酒や高いコーヒー豆やチーズなどで、

ある程度金額が決められた商品を持ち寄り、

勝ったものが全てを総取りするというルールだ。

 「レオン今年も来たよ!いるかい?」

とジャンポールが入っていくと、

フレンチブルドッグの看板犬ニコがこっちにとことこと歩いてきた。

「ニコ!!」とフィリップはしゃがみながらおでこを撫でると、

ニコはアンニュイに座って上を向いた。

ジャンポールはにっこりすると、ニコの背中を優しく撫でた。

「いらっしゃい!今年もやるのね!ランチは定番のドライカレーで良いかな?」

とマスターの奥さん、リリーが迎えてくれた。

「やあリリー、ここのドライカレーを食べなきゃクリスマスを迎えられないよ。」

とジャンポールが言うと、フィリップも続けて、

「ここのフレンチフライもね!」

と言うと、リリーは笑って店の中に入っていった。

ここ、『ニコカフェ』はサイフォンでい入れるコーヒーと、

日替わりのカレー、

サンドイッチや、もちもち食感のワッフルなどが人気で、

マスターのレオンがサーフィンをやっていることから、

インテリアにはサーフボードや海のものなどが飾られている。

奥さんのリリーは出版社に勤めていたこともあり、

アンティークブルーを基調とした本棚に、たくさんの本が揃えてあり、

ニコカフェのファンは時折ブッククラブを開いたりと、

観光客にも地元の人にも愛されるカフェだ。

中に入っていくとレオンがエプロンを脱ぎ、

一番奥のテーブルに座って待っていた。

「やあ、お2人さん。今年も2人揃って負けに来たの?」

とニヤッと笑うレオンに、

ジャンポールとフィリップは首を激しく横に振り、

「今年こそは君に勝ってプレゼントを総取りするさ!」

と闘志を燃やすフィリップと、そのセリフに深く頷き、

静かに勝負に備えるジャンポールは、真剣な顔をして席についた。

リリーは毎年繰り広げられるこの光景を、

いつもニコと2人で微笑ましく見守っていた。

リリーは足元で座りながら、

上目遣いで何か言いたそうにしているニコを見て頷くと、

「今年もあの2人はやられるねニコ。フィリップもジャンポールも、

すぐ顔に出るって、お父しゃん言ってたもんね。」

と笑って言うと、戦場にドライカレーを持っていった。