第五話「情報提供者の話」

ジャンポールは車に箱を積み終わると、親子の車の方へ歩いていった。

少し遠くに二人が見えたが、荷物を積んでいる最中のようだ。

近づいていくとジェームスがジャンポールに気がついた。

「あ!ジャンポールさん!今お返ししますね!」

と言うと手際良く荷物をしまい、車のトランクを閉めた。

「いやいや、ゆっくりで大丈夫ですよ。手伝いに行こうと思ったのですが、

かえって焦らせてしまったかな?」

と言いながらワゴンを受け取った。

「いえ!ちょうど良かったです。本当に助かりました。」

とジェームスが言うと、マックスは寒さで赤くなった頬を手で温めながら

「…ありがとう」

と小さな声で言った。

ジャンポールはにこっと笑うと、

「少しでもお役に立ててよかった。

寒いので早くホテルに戻った方が良さそうですね。」

と言うと、

ジェームスは白い息を吐きながら

「はい!急に冷え込んできましたね。

戻って温かいものでも飲もうと思います。

本当ににありがとうございました!」

と車のトランクを閉め、笑顔でマックスを抱き寄せ、

小さな背中をさすりながらホテルに戻っていった。

ジャンポールは二人が戻って行くのを見送ると、

ワゴンを押しながら自分の車に向かった。

気がつけば業者用の駐車スペース以外は埋まり、

ワゴンを運ぶ間にも数台の車が行き交い、出入りが激しくなってきていた。

来客の殆どはツリーのイルミネーションと、

クリスマスシーズン限定で作るパイが目的のようだ。

ここのシェフは海外の高級レストランで修業を積み、

こちらに帰ってきてからは、エトワールホテルで自由に好きなものを作りたい、

そして構えないで気軽に上質で美味しいものを食べて貰いたいと、

カフェスタイルで腕を振るっている。

ミートパイやポットパイ、フルーツスイートパイなど、

クリスマスまでの1週間、日替わりで味が変わるため、

全種類食べたくなるほど病みつきになると評判を呼び、

今では”クリスマスウィークにはここのパイ“という風潮になっている。

予約制でテイクアウトも出来ることから、温かい飲み物と一緒にパイを買い、

ツリーのイルミネーションで写真を撮って帰るコースが人気だ。

その期間限定パイを求める客で、ますます賑わってきていた店内では、

ニナが新しく人が来るたびにエントランスの方を見ていたが、

ジャンポールの姿はまだなかった。

フィリップはプックを抱っこしたまま、少し離れたところにいたが、

プックに何か話しかけながら戻ってきていた。

「フィリップさん、ジャンポール遅いですね。お時間大丈夫ですか?」

とニナが申し訳なさそうに聞くと、

「時間は全く問題ないよ!仕事も終わらせて来てるからね。

ニナ、もし良ければ後ろのテーブルでプックちゃんと待っててもいいかい?」

と、スーツのボタンに夢中になっているプックをあやしながら言った。

ニナは2人の微笑ましい光景を見て、

「もちろんです!あら、すっかり馴染んじゃって!

今日初めて会ったなんて思えないわね。」

といたずらっぽく言うと、フィリップはさらにいたずらっぽく、

「前から知ってるからね。」

と、にやっと笑って見せた。

ニナはふふっと笑うと、

「ここは十分あったかいけど、一応これを。」

と言って、マフラーを持って席を立ち、プックを覆うように包んだ。

プックは顎をマフラーの上に乗せ、上目遣いでニナを見たあと、

再びフィリップのボタンを見つめている。

ニナはプックのおでこをツンと指で触りながら、

「ボタン、取っちゃダメだからね!フィリップさん、

取られないように気をつけてくださいね!しっかり前科があるので!」

と眉毛を片方くいっとあげて人差し指を立てると、

プックに注意するように言った。

フィリップは口を開けてニナに驚いた顔を見せると、

プックにウィンクをし、後ろのテーブル席に移動した。

ニナは席に戻り

「すみませんクロウディアさん、大変な時にお時間いただいてしまって。」

と言うと、

「とんでもないです!声をかけたのは私ですし、

元々お電話頂いた方がいつ会いに来るかも確認せずに、

焦ってこちらに来てしまったので、かえって助かりました。」

と言うと、

「本当ですか!?それを聞いてほっとしました。

図々しくお節介してしまったと思っていましたので…。

あ、ではその方が来たら、私は後ろの席に移動しますね。」

とニナは微笑み、テーブルの上の布を畳み、カード類を鞄に入れ、

手帳だけをテーブルに置いた。

クロウディアさんは申し訳なさそうに

「そんな悪いです。ニナさんの席なのに良いのでしょうか…。

確かその女性は…。ここのパイを予約していて、

丁度取りに来るのでと電話では仰ってたので、もう直ぐだと思うのですが。」 

と言うと携帯を見た。

着信はなかったが、待ち受け画面のドレと目が合った。

この三日間、ドレがいなくなってから日常は失われ、食べることも寝ることもままならず、

情報が有れば必死に探し回り、見つからない現状に打ちのめされてきた。

ドレの写真を見る度に悲しい気持ちと不安で押しつぶされそうになっていたが、

不思議と今は”絶対に見つける、見つけてみせる“と強く思えるようになっていた。

携帯の中にいるドレを指で撫でた後、ふと店内を見渡し、こんなにも人がいたことに驚いた。

カフェには急遽休みになり、時間を持て余しているサーカスの団員たちも、

こちらを気にかけながら、夕飯を食べに来ていた。

クロウディアさんは息を深く吸うと、静かに吐き呼吸を整えた。

「ニナさん、今日は本当にお会いして良かったです。私、しっかりします。」

と意思的な目で言った。

「…はい!私も今日お会いできて本当によかったです。」

とニナは頷いた。

クロウディアさんは飲み干したカプチーノをも一度頼もうと、

椅子の脇によけていたメニューを持ち、店内を見渡した。

サラも他の店員も忙しそうにしていて、気づく気配はないが、

カフェの入り口から歩いてくる紫色のコートの女性がこちら見ている気がした。

クロウディアさんはその女性を目で追っていると、

やはり足早にこちらに向かって来ているようだ。

ニナもクロウディアさんの様子にふと同じ方向を見ると、

女性が目の前で止まり、

「あの、新聞に載っていたサーカスのクロウディアさんですよね?ドレちゃんのことで先程電話したものですが…。」

と声をかけてきた。

クロウディアさんはハッとしてテーブルにメニューを置き、

慌てて席を立つと、

「はい!私です。来てくださったのですね!ありがとうございます!」

と答え、緊張した顔になった。

ニナはすぐに自分の席を立ち、

「あの、私席変わります。こちらでよろしければ使ってください。」

と話しかけると、

「あ、そんな、悪いです!大した情報ではないので、

立ち話だけで大丈夫です。伝えたらすぐに帰りますので…。」

と女性は申し訳なさそうに言ったが、

クロウディアさんはニナと目を合わせた後、ニナは腰をおろした。

「どんな情報もありがたいです!もしお時間が良ければ、詳しく知りたいので、暖かい飲み物でもご一緒にどうですか?ニナさんもよろしければご一緒に…!」

とクロウディアさんが誘うと、ニナはにっこりと頷いた。

女性は少し戸惑ったあと

「良いのですか?」

と言ってニナを見ると、ニナは隣の椅子を引き、

「もちろんです!私も今ドレちゃんの話をしていたところなんです。

ご一緒できたら嬉しいです!」

とにこっと微笑むと、女性は遠慮がちだった表情がふっと和らぎ、

「ではお言葉に甘えて。」

と言うとコートを脱ぎ、笑顔で席に座った。

程なくして気がついたサラがお水を持ってくると、丁寧に女性の前に置いた。

女性はテーブルにあった飲み物のメニューをパラパラとめくりながら、

迷っている様子だ。

サラは急かしてはいけないと思い、

「お決まりの頃に、改めて伺いますね」

と言うと、後ろのフィリップの席にも水を置いた。

プックはフィリップの腕の中からぴょこんと重たそうな頭を出すと、

サラの顔を覗き込むように見ている。

「あら!お父さんプックちゃん抱っこしてる!

いいなぁ。もうメロメロなんでしょう!」

とプックのおでこを撫でながら言うと、フィリップは得意げな顔をして、

「そりゃ待ちに待ったご対面だからね。ご覧の通りすっかり仲良しだよ。

そうでちゅよねプックちゃん!」

と言い、顔の近くまで抱き上げると、おでこに軽くキスをした。

「うわぁ、可愛い子見るといつもその赤ちゃん言葉、

どうにかならないかしらね…」

と苦笑いした。

「別に変じゃないでちゅよねプックちゃん!

あ、サラや、いつものを二つお願いね!」

と言うと、すぐにプックとの二人の世界に戻って行った。

「はいはい、お父さんのはお砂糖とミルク、ジャンポールさんがブラックね。」

といつものオーダーを確認すると、フィリップはプックの手をあげて

「イエス!」と答えた。サラはプッと吹き出し、

笑顔のまま大忙しの厨房へ戻って行った。

フィリップはプックに巻いていたマフラーを巻き直すと、

上目遣いしていたプックは、気持ちよさそうに目を瞑り、

マフラーの端をあむあむしながら甘えている。

フィリップは目を細めながら自然と口元が緩んだ。

「君のパパはもう少しで来るはずだからね。一緒に待ってようね。」

と優しく声をかけると、エントランスの方を見た。

次々と訪れる客の中には、まだジャンポールの姿はなかった。

ホテルに戻ったジェームスとマックスは、カフェに入り、

空いた席を探していた。

ちょうどフィリップとプックのいる席の一つ奥のテーブルの客が帰り、

店員が念入りに掃除しているのを見つけた。

「あそこ空くみたいだから、あそこにしようか」

とジェームスが指差すと、マックスは頷き、二人は席へ向かった。

ニナ達の席を通り過ぎようとしたその時、

ぬいぐるみが椅子に置いてあったクロウディアさんの帽子に当たり、

床に落ちてしまった。

マックスは帽子を慌てて拾うと、

「…ごめんなさい。」と小さな声で言った。

クロウディアさんはとっさに立つと、マックスの目線までしゃがみ、

笑顔で帽子を受け取った。

「こちらこそごめんなさい。その子は大丈夫かな?」

と顔を真っ直ぐ覗き込んで聞くクロウディアさんに、

マックスは目線を外しながら、ぬいぐるみをギュッと抱きしめた。

「…大丈夫。」と言って照れながら小走りでその場を去っていった。

クロウディアさんが席に戻ると、女性はメニューを閉じ、

「あの、決めました。私チャイラテにします。時間かかってすみません…。」

と言うと、クロウディアさんは

「はい!今頼みますね!」

と言い、フィリップの席にコーヒーを運び終わり、

こちらの様子を伺っていたサラに視線を送った。

「お決まりですか?」

とすぐに笑顔で対応するサラに、女性は

「チャイラテをお願いします。」

と言うと、ニナは

「追加で私はシナモンミルクティーを。」

と笑顔で付け足した。

サラがメモを取っていると、クロウディアさんはメニューを何回も見返しながら、

「あの、何度も見てメニューに無かったのですが…、

これと同じ星のカプチーノをもう一度頼めますか?」と言うと、

「はい!もちろんです!ではすぐにお持ちしますね」と弾んだ声で答え、

ニナにウィンクをすると戻って行った。

女性は水を飲み、コホンと声を整えると、

「あの、本当に大した情報ではないのですが、お話しますね。」と切り出した。

クロウディアさんは座り直し、ニナは手帳の新しいページを開き、

二人とも真剣な顔になった。

「実は一昨日、うちのベランダからドレちゃんに良く似た子を見たんです。」

と女性が言うと、クロウディアさんは口を覆うように両手を合わせ、

聞き入った。

途中で飲み物が運ばれてきたが、誰も手をつけず、

ニナは聞いたことを順番通りに書き記した。

話によると、この女性はドレのスカーフが拾われたパン屋さんの向かいに住んでいるようだ。

ドレがいなくなった翌日の朝、ベランダで育てているハーブに水をやろうと外に出ると、

隣家との間の塀の上で、ドレによく似た猫が何かを追いかけるように走っていった姿を見たようだ。

ニナはメモを取りながらクロウディアさんの時と同じく、

情報を記入した横に質問事項を箇条書きにしていた。

・ドレの側に人はいたのか

・見かけた時スカーフはしていたのか

・どの方向へ走って行ったのか

クロウディアさんはメモを見ながら質問事項を読み上げ、女性に尋ねた。

「あの、見かけた時誰か人の気配はありましたか?あと、その時はスカーフはしていましたか?」

と緊張した顔で唾を飲み込み、女性の顔を見つめた。

女性は顎に手を添えながら、

「いえ多分誰もいませんでした。私が見かけた子がもしドレちゃんでしたら、

スカーフをしていなかったと思います。つけていたら目立つはずですし、

新聞に載っていたお写真とそっくりな、

フワフワの金色の毛並みしか覚えていないので…。」

とはっきりとした口調で言った。クロウディアさんは胸に手を当てながら、

「誰かに追いかけられてる様子もなく、スカーフもしていなかったのですね!

…よかった!もし…もしその子がドレだったら、

それが分かっただけでも少し希望が持てます…。」

と興奮気味に言うと、深く息を吐いた。

ニナは質問の横に『スカーフは取れて道路に落ちた可能性』と書き込むと、

クロウディアさんと目を合わせて小さく頷いた。

女性はニナのメモの質問の最後の項目を指差すと、

「走って行った方向は…とにかく何かに夢中になって追いかけていたみたいで、

私の家からですと、このホテルか教会の方向に走って行ったように見えました。

私が見たことはこれくらいです…。」

と言い終わると、ふぅっと小さく息を吐いた。緊張が解けたのか、

少し硬くなっていた表情が和らぎ、勢いよくチャイラテを飲んだ。

クロウディアさんは頬に手を当て、

「やっぱりこの周辺にドレはいるのかもしれないですね。

好奇心旺盛なので、何かに夢中になって迷子になった可能性もありそうです…。」

と言い、ため息をついた。

女性はクロウディアさんに

「見つけたという報告じゃなくてすみません。」

と申し訳なさそうに言った。

クロウディアさんは首を振ると、

「そんな!とんでもないです!誘拐じゃないかもと思えるだけで、

どれだけ救われたか…。本当に貴重な情報を教えていただき、

ありがとうございます。」

と言うと、ニナも深く頷いた。

女性はほっとした表情を浮かべると、チャイラテを飲み干した。

クロウディアさんもカプチーノを一口飲むと、

何か思い出したようにカバンをゴソゴソし、何やら紙を取り出した。

「必ずドレを見つけて、お礼の公演を開きますので、

その時はどうか見にいらしていただきたいです。願掛けでもありますが、

特別席のチケットです。どうか受け取っていただきたいです。」

と言うと女性の手を握りながら渡した。

女性は感激した様子で、そっとその手を包むように手を添えると、

「是非実現して欲しいです!

私も子供のように可愛がっている愛猫がいますので、

お気持ち分かります。早く見つかるように祈っています。」

と言い、チケットを大事そうに受け取った。

ニナがそのやりとりを微笑みながら見守っていると、

すっと視界に手を小さく挙げたジャンポールの姿が映り込んできた。

ニナは笑顔で迎えると、ジャンポールは被っていた帽子を脱ぎ、

「ただいま。すっかり待たせてしまったね。

おや、初めましての方もいらっしゃるようだね」

と言うと女性に笑顔で挨拶をした。

女性も少し恥ずかしそうに挨拶をすると、

後ろの方からプックのピーピーと言う声と共に、

「ジャンポール!こっちこっち!」

とフィリップの嬉しそうな声がした。

ニナはジャンポールにウィンクをし、

「愛する親友が愛する坊やと一緒に待ってくれてたの。」

と言うと、ジャンポールは少年のような笑顔を見せ、ははは!と笑った。

「いやあ、時間かかってすまないね。プックとすっかり打ち解けたのかい?」

と言いながら通り過ぎる時にクロウディアさんにもウィンクをし、

ジャンポールは後ろの席へ向かった。

女性は店内を見渡し、テイクアウト専用レジの客の混み具合を確認すると、

腕時計を見た。カバンからお財布を取り出し、

「それではそろそろ、私はパイを受け取って帰りますので、

これで失礼しますね。今日は直接お会いして伝えられてよかったです。」

と言うと、代金をテーブルに置こうと手を伸ばしたが、

クロウディアさんがそっと手で制止した。

「ここは私が持ちますから、お気になさらないでください。

本当に、本当にありがとうございました。」

とにっこり笑った。

「そんな…大したことも出来ていないのに、

何だか逆に頂いてばかりですみません…。

もし、私に出来ることがありましたら、何でも仰ってくださいね。」

と女性は胸に手を当てて言うと、席を立ちコートを羽織った。

クロウディアさんも続けて立つと、

「本当にありがとうございました。諦めないで絶対見つけるまで、

頑張ります。」

と言うと、お互いぎゅっとハグをした。

女性は笑顔で手を振り、クリスマスパイの列の最後尾に向かった。

ニナも手を振って女性を見送った。クロウディアさんは席に戻り、

ニナに向き直ると、

「ニナさん、一緒に聞いて頂いて、本当に助かりました。

私一人だったら、肝心なことも聞けないでドキドキするばかりで、

落ち着いて話せなかったと思います。」

と言うと、ぬるくなったカプチーノを一気に飲んだ。

ニナは微笑むと、書いていたメモの写しを渡した。

「私はただメモをしていただけですが、一緒に聞けてよかったです。

何よりドレちゃんが、誘拐にも、事故にあっていないかもしれないと、

希望が持てることが嬉しいです!」

と言うと、クロウディアさんはメモを見つめながら頷き、

「タイヤの後のついたスカーフも、誘拐かもしれないという疑いも、

この数日考えるだけで生きた心地がしませんでした。

もしそうじゃないのなら…希望が見えてきました。」

と言うと窓の外を見た。

「私、やっぱり外を見てこようと思います。

近くで寒い思いをしているかもしれないですし、

お腹すかせて私を探してるかもしれないので…。」

と言うと鞄からお財布を出し、メモをしまった。

「はい、どうか外は寒いので気をつけてくださいね。

メモの後ろに私の電話番号も書いてありますので、

何かあったら遠慮なくご連絡くださいね。」

と言うと、鞄に手帳をしまった。

「ありがとうございます!

ニナさん、今日は何から何まで本当に助かりました。

泣いてばかりいましたが、本当に新しい展開が生まれているような気がして、

いい方向に向かっているのかもしれません!

信じて探してみようと思います。」

と言うとコートを羽織った。

「私も出来る限りの協力をします。街の友人にも聞いてみます。

掲示板や商店街にポスターを貼ったり、みんな協力してくれると思います。」

と言うと、クロウディアさんはニナの顔を見つめると、

母親に泣きつく少女のような表情をして、

ハグをした。ニナはクロウディアさんの背中をぽんぽんと優しく叩き、

「一緒に探しますから、一人じゃないですから大丈夫。」

と言うと、今度は優しく背中をさすった。

クロウディアさんは鼻をすすり、声を震わせながら

「本当になんとお礼を言ったら良いのか…、

ありがとうございます。心強いです。

早く良いご報告ができるように頑張ります。」

と言うと、涙を手でぬぐい、抱きしめる腕の力を強めた。

その光景を見ていたのか、

後ろの席から甲高い声で

「キュンキュンクーンクーン!」

とプックの声が聞こえてきた。

二人は驚きつつも笑いながらプックを見ると、

今にもフィリップの腕から飛び出しそうにしていた。

「はは!どうやらおチビさんはその輪に加わりたいようだよ!」

とフィリップがプックを抱っこして側に来ると、

クロウディアさんの顔をペロッと舐めた。

クロウディアさんはくすぐったそうにしながら、

「本当に君は私の気持ちをわかってるのかもね。

ありがとう。プックちゃん、優しいね。」

と言ってプックの頭を撫でた。

フィリップはクロウディアさんが持っている伝票をひょいと取り、

「今日は気分が良いから奢りだよ。ジャンポールのね。」

と言ってにやりとした。

ジャンポールは眉毛を上げて固まったようにおどけて見せたが、

「今日はオーナーさんに商品を沢山買ってもらったからね。僕の奢りで構わないよ。」

と微笑むと、フィリップは不満そうな顔をして、

「プックちゃん、君のパパは冗談が通じないでちゅね!ダメでちゅね!」

と言って伝票をズボンのポケットにしまった。

クロウディアさんが呆気に取られて

「良いのですか?」

と目をぱちくりさせて聞くと、

「こう見えて、一応ここのホテルの偉い人だからね!」

と言うと豪快に笑った。クロウディアさんと

ニナも笑いながら目を合わせた。

「フィリップさんありがとうございます。ここは温かい人たちばかりで、

私も見習わないとです。」

と言って胸に手を当て深呼吸をした。

「では、少し探してきます。本当にありがとうございました!」

と言うと、帽子を被って外へ向かった。

3人と小さな天使がその後ろ姿を見送っていると、思いが通じたのか、

エントランス近くで振り返り、手を振った。それぞれが手を振り応えると、

クロウディアさんは頷き、再び歩き出した。

クロウディアさんの姿見えなくなると、ようやく席に戻った。

ニナはフィリップとジャンポールの席に合流し、荷物を移動させた。

空いた席はすぐに片付けられると、新しい客が座った。