第六話「ドレの捜索と甘い記憶」

マックスとジェームスは二人して同じココアを頼み、

ふーふーと冷ましながら飲んでいた。

ジェームスの眼鏡が曇る様子を見て、マックスがケラケラと笑った。

眼鏡がクリアになっていくと奥には優しい眼差しが現れた。

「あったまるなぁ。このココア美味しいね。そういえば、

今そこで並んでる人達はパイを買うためって知ってた?」

とジェームスが聞くと、

「うん、入り口に日替わりパイってポスターがあったよ。

このメニューにも、ほら。」

と言ってクリスマスメニューの特集ページを開いた。

「なるほどこれか。今日はベリーパイ、

明日は海老のビスクのポットパイだって。美味しそうだね。」

「うん。でも僕はママがクリスマスに作るマフィンが食べたいけどね。」

とスイーツのページをさらさらと開いて言った。

ジェームスは小さなため息をつくと、遠い目をした。

「シンシアが旅立ってもう3年か。早いような遅いような、

シンシアもレジーも居ないなんて、信じられないでいるよ。

レジーは今、シンシアに会えているのかな。ママが大好きだったからね。」

と言うと窓の外を見た。

マックスは話題を切り替えるかのように、わざとシャッター音を出し、

テーブルの上に置いたぬいぐるみ越しにイルミネーションを撮ると、

「お父さん見て、レジーも光ってるみたいに写ったよ!」

と言って画面を見せた。

「お、綺麗に撮れてるね。グレーのレジーがピンクになってるよ。

あ、後ろにジャンポールさんも写ってるね!」

と言うと後ろを振り返った。マックスは画面を見直すと、

前の席を見た。

「本当だ。ねえパパ、あの人も僕と同じだって。」

と言うと、ぬいぐるみをテーブルから自分の隣に置いた。

「うん、そうみたいだね。実は『虹の泉』の絵本もそう言う物語なんだよ。

せっかく来たんだし、マックスもそろそろ読めばいいのに。」

と言うと、マックスをじっと見つめた。

「悲しいお話でしょ。僕はまだいいよ。」

とココアをすすって目を合わせずに窓を見た。

「いーや、ハッピーエンドのお話だよ。マックスの願いが叶うようなね。

パパはそれを読んで救われたんだし、ここにも連れて来たんだから。」

と言うと、興味を示さない息子にため息をついた。

「気が向けば読んでみるよ。」

とマックスが言うと、良い香りと共に頼んでいた料理が運ばれてきた。

「さあ、明日ここを離れないとだから、

なんでも好きなもの頼んで良いからね。

食べたらお風呂に入って、早めに寝ておこう。」

と言うと、美味しそうなステーキに目を輝かせた。

 後ろの席のジャンポールたちは、カフェで夕食を取ることに決め、

料理が来るまでの間、女性に聞いたドレの話や、

ホテルでポスターを印刷し、どうやって商店街に配るかなどを話し合っていた。

プックはいち早く子犬用のご飯を貰い、

ペット用のトイレスペースで立派に仕事をこなし、

ふかふかのベッドで眠っていた。

時折寝息が聞こえ、3人はその可愛い寝顔に見入っていた。

「いやあ、たまらないね。あの子を思い出すよ。

匂いも似ててさ、懐かしい気がするんだよ。」

とフィリップがプックを見ながら言うと、

ジャンポールは少し前のめりになり、

「君もやっぱりそう思うかい?見つめ方とか、

感情表現も本当にそっくりなんだよ。」

と言ってコーヒーを美味しそうに飲んだ。

「まあ、僕らはいつも一緒だったからね。今日会って確信したよ!」

とフィリップが言うと、ジャンポールは嬉しそうな顔をした。

「僕が小瓶を無くしたばっかりに、もう無理だと諦めて、

気がついたらこんなに時間が経ってしまったよ。

小瓶がなくても帰ってきてくれたのかな..。」

とプックにかけてある布を直しながら言うと、

ニナとフィリップはお互いに意味ありげに目配せをした。

「まあ、ジャンはおっちょこちょいだからな。」

とフィリップが言うと、

「いや、君には負けるよフィル。」

と少年に戻ったかのように言い合っている。

ニナは二人の話を聞きながらも、手帳に明日ポスターを貼る場所を選定していた。

フィリップは店内を見渡し、

猫連れの家族がニナの居た席に来ているのを見ると、

思い出したように話し始めた。

「そういえばジャン、あの時君が救った猫なんだけどさ、

その子の血縁の子でね、もう何代目かの子猫をこの前見せて貰ったんだよ。

サラが一目惚れしてしまってね、その子をもらうことになったんだよ。」

ジャンポールは目を輝かせながら

「それはすごいねフィル、そうか、あの子の命がつながって、

また君と暮らせるようになるのか。」

と言うと感慨深そうに何度も頷いた。

フィリップも同じように頷いていると、

「はーい!お待たせしました!

ニナのオムライスとお父さんのハンバーグ、

あとジャンポールさんのパスタお持ちしましたよー!」

とサラが元気よく料理を運んできた。

「噂をすれば…だね!あれ今日のパイは?」

とフィリップが言うと、サラはゴールドの給仕ワゴンから器用に料理を取り出すと、手際良く置いた。

「今日はベリーベリー・マスカルポーネパイだから、

デザートに後で運んで来れるけど、それでいい?」

と伝票にチェックマークをつけながら言った。

ニナはジャンポールを見て、プックの寝ている様子を見ると、

「サラ、私たちは持ち帰りでお願いして良いかしら?」と言うと、

フィリップは

「そうだね!

プックちゃんのためにも本格的に寒くなる前に帰ったほうがいいね!」

と頷いた。

「かしこまりました!じゃお父さんのは後で部屋に持って行かせるね。」

と言ってウィンクし戻っていった。

 マルフェット商店街では、

壁やアーケード全体に施されたイルミネーションの色が、

商店街に流れる音楽に合わせて変化するように設定されている。

“ジングルベル”の音楽では虹色が弾むように賑やかに光ったかと思えば、

商店街のテーマ曲でもある“星に願いを”がかかると、

白から黄色にゆっくりと優雅に変化しながら光ったりと、

通るだけでも楽しめるようになっていた。

クロウディアさんはその幻想的な雰囲気に、

ドレとの思い出をたくさん思い出しては、その姿がないか、

恋人たちや家族連れが行き交う中、優しく呼びながら探していた。

「ドレー!ドレちゃん!ママだよ大丈夫だから出ておいで…!」

あの可愛らしい姿はどこにも見えず、

気がつけば、どんどんホテルからは離れ、

カフェで会った女性の家の近くまで来ていた。

商店街のメイン通りから路地に入ると、

イルミネーションはまばらに続いているが、音楽は聞こえなくなり、

自分のドレを呼ぶ声だけが響いていた。

灯りのある方に歩いて行くと、少し坂を降りた奥に、

薔薇のアーチや綺麗なお花のガーデンランプが置いてある家の前に着いた。

ピアノの音が微かに聞こえ、その音に導かれるように歩くと、

クロウディアさんは小さな声で

「ドレ!ドレちゃん…!」

と呼びながらしゃがみ、ドレが暖を取りそうな場所を見てまわった。

しばらく探していると、ふと弾いている曲が耳に入り、

感情が込み上げ、一気に涙が溢れてきた。

その曲はショパンの『華麗なる大円舞曲』で、

ドレが颯爽とロープを歩く演目でかけている曲だ。

クロウディアさんはしゃがみながら、

涙を拭い、暫くピアノを聴いていると、

「あの、どうなさいましたか?大丈夫ですか?」

と女性に声をかけられた。

クロウディアさんは慌てて立ち上がり、

「すみません!大丈夫です。愛猫を探していて、

ピアノに聞き入ってしまって…」

と言うと、笑顔で取り繕った。

女性は安心した顔になり、

「よかったー!具合が悪いのかと思って、心配しました。

猫ちゃんいなくなっちゃったのですか?一緒に探しますよ!」

と言うと、薔薇のアーチをくぐり、いそいそと玄関に荷物を置こうとした。

「あ、大丈夫です!実は今いなくなった訳ではなくて、

もう3日目で…だいぶ時間が経ってしまっていて…

なので少し探したら、また違うところに行きますので…。」

と言うと、

「3日目…ですか?あれ、もしかしておばあちゃんが言ってた子かな?」

と言うとドアを開けて

「おばあちゃん!おばあちゃん!!」

と大きな声で呼び始めた。

クロウディアさんはびっくりしながらも、その様子を見ていると、

開いたドアの奥から先程のピアノの音色が聞こえてきた。

「おばあちゃん、ピアノに夢中で聞こえないのかも。ちょっと待っててください!」

と言うとパタパタと中に入っていった。

待っていると、

中から嬉しそうに小ぶりな可愛いワンちゃんがこちらに走ってきて、

目が合うと誰?と言いたげに首を傾げた。

「ラン!ランったら出ちゃだめよ!」

と言われながら戻ってきた女性に抱っこされ、こっちを見ている。

「わぁ可愛らしい子ですね!ランちゃんと言うんですね。狆ですか?」

とクロウディアさんが聞くと、

「え、凄い!よく分かりましたね!?

結構わからない人がいるので嬉しいです!」

と言うと、

「私も昔、狆と暮らしていたので、

この感じ懐かしいです!触ってもいいですか?」

とクロウディアさんは嬉しそうに言った。

「勿論です!ラン良かったねぇ」

と女性が言うと、クロウディアさんは手が冷たくないように、

何回か擦った後におでこと耳を撫でた。

「ランちゃん、くりくりのお目目とキュッとしたお口が可愛いね」

と触っていると、後ろから杖をつきながら、綺麗なワンピースを着た、

独特な雰囲気のあるお婆さんが歩いてきた。

「こんばんは、とりあえずここでは寒いので中に入ってくださいな。」

と言うと、ゆっくり奥に戻っていった。

クロウディアさんは戸惑っていると、女性もどうぞどうぞ!

と言って中に招いた。

言われるがままに中へ入ると、

廊下を少し歩いた奥の部屋でお婆さんが紅茶をいれていた。

「猫ちゃんを探してるんですって?一昨日くらいにね、

その日はお天気が良くって、少し窓を開けていたの。

さっきと同じワルツを弾いていたら、窓の飾り台に飛び乗ってきた子がいてね、

中に入って行きなさいなって声をかけたら、

ソファでしばらくピアノを聴いていったのよ。

でも気がついたら出ていってしまっていて、

家族に話しても誰も信じないんですよ。そこの孫のシンディもね。」

と言ってカップをクロウディアさんの前に置いた。

クロウディアさんは展開についていけず、やっと椅子に座り、

急展開にあたふたとしていた。

シンディは玄関に置いていた荷物を持ってくると、

「だってピアノを弾いている時のおばあちゃんは、

夢中になってて、おばあちゃんの世界の中じゃない?だからきっと何か想像とか、

そう言うものだと思って聞いていたのよ。

ピアニストならではの感性かなと思って。」

と言い、自分もカップを持ってきて紅茶を入れた。

近くのソファに飛び乗ったランちゃんは、

左右に首を傾げて一生懸命話を聞いている。

「あの、その猫なのですが、こんな感じの子でしたか!?」

とクロウディアさんが携帯でドレの写真を見せると、

お婆さんは眼鏡を何度も調節し、遠くに携帯を持って凝視した。

「目が悪くてよく見えないけれど、そうね、

こんな感じの金色でふわふわの子だったと思うわ。

そうそう、確かこんな感じだったわね。」

と言うと、クロウディアさんは思わず身体をピンと伸ばして、

「ドレかもしれません!!実は先程の曲、ドレとは縁の深い曲なので、

音色に導かれて来たのかもしれません!」

と興奮気味に言うと、

「まあ!」

と言ってお婆さんはシンディと目を合わせた。

「何だかすごい!猫ちゃん、ドレちゃんって言うんですね。

私、友達や近所の人にも聞いてみます!誰か保護してるかもしれないし!」

とシンディが言うと、クロウディアさんは急展開にドキドキしながらも、

「ありがとうございます!」と言って冷静に座り直した。

「あ、私クロウディアと言います。サーカスの公演でこちらに来ました。」

と言うと、シンディは置いてあった新聞を手に取り、

「おばあちゃん!私今日見た!この新聞に載ってる方ですよね!?」

と言って記事を広げた。するとお婆さんは新聞を手に取り、

「あら、本当だわ。クロウディさんごめんなさいね。

気づかなくて。この大きな写真ならよくわかるわ。そう、この子だわ」

と言うと、クロウディアさんは目を輝かせながら、

「そんなとんでもないです!ドレがここに来ていたなんて…。

私、まだこの辺に居るかもしれないので、もう少し探してみます!」

と言うと、紅茶をぐいっと飲み、立ち上がった。

「あら熱いのに無理しないで!紅茶はいいから行ってあげて!

シンディ、ほら玄関までお見送りしてあげて。」

と言ってにっこり笑った。

クロウディアさんはお婆さんにハグをすると、

手を振ってシンディについて行った。

ランちゃんが前に歩いているが、まるで来ているのを確認するように、

時折振り返って見ている。

クロウディアさんは小さな声で「ありがとう」と言うと、玄関についた。

シンディがドアを開けてクロウディアさんが出ると、

「何か分かったら、新聞に載ってる連絡先のところに電話すればいいんですよね!?」

と言い、外に出そうなランちゃんを抱っこした。

「はい!私の携帯につながるので、お願いします!」

と言い、ランちゃんを撫でると、薔薇のアーチを出て手を振った。

シンディもランちゃんの手を振って、笑顔で見送った。

 エトワールホテルの駐車場は相変わらず出入りが激しく、

当日分のパイも売り切れ寸前になっていた。

3人は夕食を終え、ニナとジャンポールはスヌードにプックを入れていた。

フィリップは名残惜しそうにプックを撫でながら、

「またすぐ会えるから、その時まで待っててねプックちゃん!」

と言うと、プックは手をペロンと舐めた。

「それじゃ、また明日プックがかじった分のカードを持ってくるよ。」

とジャンポールが言うと、

「カードはクリスマス当日でも大丈夫だから、教会で渡してくれてもいいよ。

その日は君に見せたいものもあるしね。」

と答えると、ニナと目を合わせニカっと笑った。

ニナもにっこり返すと、

「フィリップさん、今日はごちそう様です。

まさか夕飯もテイクアウトの分も出してくださるなんて…。

」と言い、持ち帰りのパイが入った紙袋を持ち上げて見せた。

「プックちゃんにカッコいいところ見せたくてね!」

と豪快に笑うと、プックを撫でた。

「フィル、ありがとう。今度は僕がご馳走するよ。

明日はほら恒例のあの日だろう。ゲームのお供にランチを食べよう。」

とジャンポールが言うと、

「お!いいね!それじゃ、また明日連絡するよ。

ポスターの件は、あてがあるから手配しておくよ。

とフィリップは任せろと言わんばかりに、親指を立てて答えた。

「じゃあ気をつけて帰ってね。」

と言うと、それぞれハグをしてエレベーターに乗っていった。

フィリップの姿が見えなくなるまで見送ると、

カフェからマックスとジェームスが出てきた。

「あ!ジャンポールさん!先程はありがとうございました!」

とジェームスが言うと、

「いやいや、大したことは何もしてませんよ。

あ、彼女は妻のニナです。」と改まって紹介すると、

「ジェームスです!先程旦那さんにワゴンを貸していただきました!」

と言って手を出すと、

「ニナです。初めまして。そうだったのですね」

と笑顔で握手をした。

マックスはさっきと同じように、ジェームスの後ろに隠れてモジモジしている。

「この子はマックス、シャイですみません。」

と言うと、マックスの背中を優しく押し、前に移動させた。

「マックスくん、初めまして!」

とニナがにこっと笑うと、

「…初めまして。」

と恥ずかしそうに言った。

「いやぁここはなんでも美味しいですね。

たくさん食べてデザートを頼み忘れてしまいましたよ。」

と言うと、マックスが小さな声で

「パイも売り切れ…」とボソッと言った。

「え、マックスパイ食べたかったなら、早く言ってよ。

まだある時に頼めたのに。マフィンがいいとか言うから興味ないと思ったよ」

とジェームスが言うと、マックスはむくれた顔をして

「マフィンなかったからパイでもよかった」

と言い出した。

ジャンポールは子供らしいマックスのやりとりににこにこ笑って見ていると、

ニナをチラッとみた。ニナはパイを譲ろうかと一瞬思ったが、

ハッと思い出し、鞄から手作りのマフィンを取り出した。

「あの、もしよかったらこのマフィン、あげます!

私の手作りで申し訳ないですが….。」

と言い、マックスに渡した。

マックスは驚いた顔をしたが、

受け取り、紙袋の中を嬉しそうに見ている。

ジェームスはびっくりした様子で

「良いんですか!?いや驚きました。

まさかこんなところで、思いがけず手作りのマフィンなんて….

偶然がこうも重なるなんて…」

と興奮気味に言うと、ニナは恥ずかしそうに、

「大したものじゃないのでお口に合えばいいですが…。」

と言ってずれてきたプックのスヌードをよいしょと少し体勢を変えて整えた。

プックはその弾みでぴょこんと顔を出すと、マックスをじっと見た。

「あ!可愛い!!」

とマックスが言うともじもじしながらジャンポールを見た。

「触って大丈夫だよ。」

とジャンポールがにっこり答えると、ニナは低い姿勢になり、

触りやすいようにマックスに向いた。

「わー!お鼻がぺっちゃんこだ!お耳も長いね!」

と言いながらキラキラした目でプックを触った。

プックは最初クンクンと軽くマックスの手を嗅ぎ、

次第に夢中でフゴフゴと鼻を鳴らしながら更に嗅いだ後、

ペロっと手を舐めると、

「ひゃぁ!舐められた!レジーと違って柔らかいベロだ!」

と言って嬉しそうにプックを撫でた。

ジェームスがその様子を見て、

「やっぱり動物は笑顔を作る天才だなぁ」

としみじみ言うと、ジャンポールは

「本当だね。」と言ってにこやかにマックスを見ている。ニナはマックスに

「プックって言います。よろしくねマックスくん。」と言うと、

「プック!よろしく!あはは!くすぐったいよ!」

と手を舐められてケラケラ笑っている。

「ジャンポールさん、ニナさん、プックちゃん、

ありがとうございます!久しぶりにマックスのこんな顔見れた気がします。」

と言い、マックスの頭をくしゃっと撫でた。

「こちらこそ仲良くしてくれてありがとう」とジャンポールがマックスに言うと、

「触らせてくれてありがとう…。」と返し、はにかんだ。

「お時間取ってすみません!マフィンもありがとうございます!またどこかで会えたらいいのですが…!」

とジェームスが言うと、

ジャンポールはエントランスにある商店街のパンフレットを取り、

「ここのおもちゃ屋さんをやっています。いつでも来てください。」

と言って渡した。ニナは頷くと、

「プックに会いにでも、気軽に遊びに来てくださいね」

と言って微笑んだ。

ジェームスはパンフレットを見て、

「ありがとうございます!!是非伺います!」

と言うと、マックスも

「プック!またね!」

と言って手を振った。

ニナとジャンポールも手を振ると、ホテルを後にした。

車に乗り込むと、ジャンポールは暖房をつけ、風を強くしながら、

「マフィン、よく持ってたね。余ってたのかい?」

と言うと、

「フィリップさんのために持ってきたのだけれど、

たくさん食べてたから出さなかったのよ!

サラにもお昼に渡してたしね。」

と言うと、

「そうか、マックスくんに渡せてちょうど良かったね。」

と言うと、ニナは頷き満足そうに笑った。

「さあ、帰って僕らはパイだね!」

と言って車を発車させた。

ホテルを出て少しすると、クロウディアさんの姿が見えた。

「まあ、クロウディアさん、今までずっと探していたのかしら…。」とニナが言うと、

「早く見つけてあげないとね。とりあえず出来ることを僕らはやろう。」

と言って、自宅へ急いだ。

クロウディアさんがホテルに着くと、パイの売り切れもあり、

カフェにいる客も少なくなっていた。

すぐ近くの空いた席に腰をかけると、

食事をしにきたサーカスの団員が話しかけてきた。

「座長、大丈夫ですか?私たちも手分けして探してるので、

あまり無理なさらないでくださいね。」

と言うと、買っておいたパイをテーブルに置いた。

クロウディアさんは団員を見つめると、

「ありがとう。私ったら本当にこんなに支えられているのに、

一人で孤独に感じてたなんて、ダメな座長よね。

今日からは大丈夫!

ドレとの絆を信じて前向きにいくことにしたから!

本当にごめんね。皆にも言わないとね。」

と言うと、立ち上がり団員の肩に手をやった。

「私たちはずっと一緒に旅をしてきて、家族みたいなものじゃないですか!

座長が大変なときは私たちも同じ気持ちですし、支えたいです!

もっと甘えてください!」

と団員が言うと、笑顔で頷き、

「ありがとう。私幸せ者だ。

本当に、こう言うピンチの時に絆ってありがたいよ。

よし!パイいただくね。」

と言って笑顔でパイを頬張った。

「美味しいー!!!」とクロウディアさんが感激すると、

「甘いものに目がない座長が、パイを食べないなんて、

絶対後悔すると思うって皆で言ってたんです!」

と言って団員は得意そうな顔をした。

クロウディアさんはパイを見つめて頷き、

「本当、絶対後悔してた!」

と言って目を潤ませて笑った。

団員は親指をたてて笑顔で返し、自分の席に戻ると、

一緒にいた仲間もこちらをみて手を振った。

クロウディアさんも笑顔で振り返すと、

「ありがとう、ごめんね」

と口パクとジェスチャーで伝えた。

サラがその様子をみて、

テーブルに星のカプチーノを置くと、

「流石に三杯目は…と思って考えたのですが、

ゲンを担いでこれ、サービスです!」

と言って笑った。

「わ!サラさん!ありがとう。何だか今日は人の温かさに救われる日です。

お父さんもすごく良くしてくれて…感謝です。」

と言うと、サラはにっこり笑った。

「母の大事な友人は父にとっても、私にとっても、

大事な人なので当たり前ですよ!」

と言うと、クロウディアさんは静かにその言葉を噛み締めた。

「ありがとう。本当はスーザンがまだいる時に、

この街で公演をしたかったのに、間に合わなかったことが本当に心残りで…。

スーザンもフィリップさんも、幼いサラさんを連れて、

たくさん遠くまで見に来てくれて、せめてもの恩返しだったのに、

こんなことになってごめんなさい。」

と言うと、サラは首をブンブンと横に振り、

「母は絶対応援していますよ!

だって、世界を旅する自慢の幼馴染みなんですから!

私、密かに母が見つけてくれるかなって、祈ってるんです。」

と言うと、クロウディアさんの向かいの席に座った。

クロウディアさんは泣きそうになるのを深呼吸をして我慢すると、

「ありがとう。」と言って微笑んだ。

「私、もう仕事は上りなので、一緒にパイ食べちゃおうかな!」

と言ってサラはエプロンを脱ぐと、店員を呼んだ。

クロウディアさんは嬉しそうにカプチーノを飲むと、

「サラさん、そう言うところスーザンにそっくりで嬉しい。」

と言うと、

「サラでいいですよ!呼び方!」

とにっこり笑い、

「サラ、ありがとう。私もクロウディアかディアで!」

と言うと優しく笑った。

サラは嬉しそうに頷くと、

「ディア、あのね私聞きたいことがあって、

お父さんって外国でママを見つけて一目惚れだったんでしょ?」

といたずらっぽい顔をした。

「ふふ、そう!二人はまさにスピード結婚のカップルで…、

フィリップさんは今とは違ってスリムで…」

「ほうほう…それでそれで?」

「私の公演を見にきてたスーザンに薔薇の花をどっさりプレゼントしてね…!」

「え!あのお父さんが!?やだちょっとキモい!」

「え!そこはロマンチックじゃないの?」

と笑いながら二人は意気投合し、甘酸っぱいパイを、

甘酸っぱい思い出と共に食べた。

 ホテルの316号室では、

ジェームスが貰ったマフィンを備え付けのレンジで温めていた。

「いい匂い!半分にして食べよう。」

と言うと、出したマフィンを手で半分に分けた。

「ちょっと熱いから気をつけてね」

と言ってマックスに渡すと、マックスはすぐにかぶりついた。

「あくっ!」

と口を開けて息を吐き、熱い空気を逃がそうとしているマックスに、

ジェームスは「ほら言っただろ!」

と言って笑った。

ジェームスはふーと息をかけて頬張ると、味わうごとに表情が変わり、マックスを見た。

「このマフィン、ママの味に似てる…!」

と言ってびっくりした表情でジェームスと見つめ合った。