第八話 「イヴの商店街とコテージ」

イヴのマルフェット通りは、朝から大忙しだ。

商店街の大半のお店は、イヴの日は午後4時には店じまいをし、

翌日のクリスマスは休業して家族と過ごす時間を大事にしている。

そのため午前中から買い物客が押し寄せる習慣があり、

早朝から沢山の店舗が最後のクリスマス商戦の準備に追われていた。

そんな商店街の中を、自転車を押しながら歩く男性がいた。

名前はカーター、この街の郵便局に勤めていて、フットワークが軽く、

これまでに色々な動物保護活動にも率先して参加してきた心優しい若き青年だ。

マルフェットの街では、23日から商店街や飲食店以外の殆どの業種は

クリスマスホリデーでに入り、

郵便局も休みになったが、カーターはゆっくりすることもなく、

知り合いのツリーの飾り付けを手伝ったりと、

休暇も何かと忙しく過ごしていた。

そんなカーターは今日は早朝から商店街の印刷屋に向かっていた。

昨日の夜、フィリップが業者に頼んだドレのポスターが刷り終わったと、

ホテルに連絡が入り、誰が配るかと言う話になった。そこで、

配るとなれば一流のカーターに白羽の矢が立ち、

フィリップが頼むと一つ返事で動いてくれることになったのだ。

実はカーターが快く受けた理由は、

動物愛護の精神からだけではなく、

印刷屋の隣にあるフォトスタジオ『レーヴ』の独身で綺麗な、

女性店主のカルラに会えるかもしれないと言う、淡い恋心からだった。

カーターは見た目もシュッとしていて、背が高く、

学生時代はバスケット選手になろうと目指していたこともあり、

アスリートのような体型をしている。

女性にモテる割には奥手な性格のため、

彼の恋はなかなか発展しないでいた。

印刷屋に着き、赤い自転車を店の前に停め、

「おはようございます!ポスターを取りに来ました!」

と元気よく印刷屋に入っていくと、

「やあカーター!今日もかっこいいね。全部で50部できてるよ。

これから配るのかい?」

と店主が他の作業をしていた手を止め、

ナイロン紐で縛られたポスターの山をボンッと目の前の台に置いた。

「はい!今から順番に配っていくつもりです。1個目は隣の…」

「ああ、カルラの所か、多分今は居ないんじゃないかな?朝ゴミ出しの時に、

撮影に行くとか言ってた気がするよ」

「アリスの庭ですかね?」

「さあどうだろう、ホテルじゃなければそこじゃないかなぁ。

今はどこも綺麗だから撮影スポットも多いしね。」

と言うと、刷り終わったばかりの

商店街の新年セールのポスターの出来を確認している。

「わかりました!情報ありがとうございます!」

とカーターは爽やかな笑顔で返すと、

ポスターを受け取り、自転車の後ろにくくりつけた。

一応フォトスタジオの中を覗いたが、

明かりはついているものの、シャッターが半分まで降りていて、

中には誰もいないようだった。

「仕方ない。次に行くか…。」

と独り言をつぶやくと、自転車を押した。

カーターは最近街で流行っているストリートバスケにハマっていて、

マルフェットの中でも、一番の観光スポットの『虹の泉』があり、

犬のお散歩コースとしても有名な、国立バラ園、

通称『アリスの庭』にバスケットスペースが出来、

友人たちと通いはじめた時にカルラに出会った。

カルラはペットの写真を撮影するカメラマンとして知られ、

彼女の優しい性格だからこそ引き出せる、

動物の自然な笑顔や生き生きとした表情の写真が評判を呼んでいる。

またスタジオでの背景を使用した、

世界観をガラッと変えるコスプレ写真なども人気だが、

立地を利用したアリスの庭での撮影も多いようだ。

アリスの庭にはたくさんの撮影スポットがあり、

絵本の発祥の場所の虹の泉はもちろん、トランプ庭園と呼ばれる、

低い迷路のような庭園や、

巨大なティーカップの噴水のオブジェが配置された

ティーパーティファウンテンなど、あの有名な物語にちなんだ場所が多く、

SNS映えすると人気になっている。

カーターは仕事で撮影に来ていたカルラに一目惚れしたが、

顔見知りではあるものの、あまり話しかけられずにいた。

そこで今回、

ポスターを配ることで、何かのきっかけになればと飛びついたが、

カルラに会うのはまだまだ先になりそうだ。

道順をどうするかなど色々考えながらも、

少し自転車を引くとジャム屋さんに着いた。

このお店は猫の形のボトルが人気で、

自分でもジャムを作って出しているパン屋さんですら、勧める名店だ。

ボトルだけでなく、とにかく味が良いと評判になっている。

お店の前には台があり、

定番のブルベリーやストロベリー、

そして酸味と甘味が絶妙と一番人気のマーマレードや、

レモンカードと言った柑橘系のジャムが並んでいる。

「おはようございます!ポスターをお届けに来ました!」

と声をかけると、

「はーーい!あらカーターくん!」

とお店から愛猫を抱っこしながら店主が出てきた。

 「このポスターをよく見える所に、と言う事らしいのですが…。」

とカーターが言うと、店主の女性はにっこりしながら頷き、

 「これね!ニナさんから聞いてます!大勢の人に見て欲しいから、

早速貼っておきますね!」

と言い、レジ横に備え付けてある小さなベッドに猫をおろすと、

 「店番お願いね!」

と言って、早速店の外の台の上にポスターを貼りはじめた。

「ドレちゃん早く見つかって欲しいです。

いつも新聞で続報がないか見てるのだけれど…。」

と言うと、カーターは頷き、

「僕も配達の時は極力見てるんですけど、力及ばずで…。」

と言うと、肩を落とした。

「カーターくんも探してるんだね。

このポスターで何か情報が入ったらいいんだけど。」

と言って、考え込んだ。

「そうですね。そのためにも頑張って配ります!

情報が入った際はポスターにある電話番号へ!」

と言うと、

「頑張って!」

と女性は手を振った。

カーターも手を振りかえし次へ行こうと自転車を押していると、

目の前を

シルクハットと高そうなコートを羽織り、

兎を散歩させているお爺さんが通りかかった。

「やあ、お兄さん、もしかしたらそのポスター、

多分うちにも配達が来るやつじゃないかなぁ」

とポスターを覗き込んで言っている。

うさぎは上半身をあげて鼻をヒクヒクさせながら周囲を見ている。

「あ、そうなんですね!」

とカーターは背負っているボディバッグから紙を取り出すと、広げた。

そこにはポスターを配る店の地図と、

配り終わった際に印をつけるチェックリストが載っていて、

胸ポケットにさしていたペンで、ジャム屋さんにチェックを入れ、

お爺さんに紙を見せた。

「これこれ、ここだよ。」

と言って『バニーハッター』という帽子屋を指さし、

「なんなら今持ってくよ。」

とカバンのジッパーを開けた。

カーターはポスターを取り出し、丸めて輪ゴムで止めると、

「助かります!」

と言って手渡した。

「お兄ちゃん、真冬にその短い髪は寒そうだね。

今日は暖かいけど夜は雪予報だよ。」

と言うと、カバンから畳んだキャスケットを取り出し、カーターの頭に被せた。

「イヴにボランティアだろう?あげるよ。せめて頭だけでもあっためなさい。」

と言って、カバンにポスターを入れ手を軽く振ると、

うさぎをリードで引きながら通り過ぎていった。

カーターはいきなりの展開に呆気に取られ、

「え!?え!??」

と言って後ろを振り返るも、お爺さんはさっさと歩いて行ってしまった。

「あ…ありがとうございます。」

と聞こえるはずがない距離ではあるが、律儀に礼を言うと、

キャスケットを深く被り直し、次へ向かった。

 マックスとジェームスはホテルをチェックアウトするために

1階のカウンターで支払いをしていた。

従業員のダニエルが丁寧に対応し、

「それではキーをお戻しいただけますか?」

と言って革のトレイを出した。

ジェームスは名残惜しそうにホテルのキーを置き、

クレジットカードを出した。

「マックス、キーの写真ちゃんと撮った?」

とジェームスが聞くと、

「うん、レジーと一緒にね。」

と答え、携帯の写真を表示して見せた。

「よかった。パパ撮り忘れたから…。」

と胸を撫で下ろしていると、

「お忘れ物や貸し出しの返却などは大丈夫ですか?」

とダニエルが聞いた。

「はい!大丈夫です。」と即答するジェームとは反対に、

マックスはダニエルに何か言いたそうにしたが、視線を逸らし、

何も言えなかった。

「さあ行こうか。ホテルは名残惜しいけど、

次の宿泊先も人気の場所なんだよ!

幸運なことに予約できてね!すぐ近くだし向かおうか!」

と言うと、リュックを背負って歩き出した。

ダニエルは先程のマックスの態度が気になり、

ジェームスに追いつこうとするマックスに、

「あの、お客様、私の勘違いかもしれないのですが、何かありましたか?」

と聞くと、マックスはハッとした顔をして振り返り、

下を向き、歯を食いしばると、

「…ごめんなさい…!」

と言って走り出した。

ダニエルはびっくりしていたが、後を追うか迷っていると、

「ダニエルさん!ちょっといいですか?」

と清掃業者の男性に声をかけられた。

ダニエルは振り返ると、小さな紙を渡された。

「316号室を清掃しましたが、手紙が置いてありましたよ。

子供の字で書いてあるので、あの子かな?」

と言うと、ダニエルは手紙をそっと開いて中を見た。

[エトワールホテルのみなさんへ

僕はぬいぐるみのために猫トイレとお皿を借りました。

恥ずかしくて誰にも言えなかったので謝ります。ごめんなさい。]

手紙には何度も書いたり消したりした跡があり、清掃員の男性に視線を戻すと、

「ごめんなさい。実は手紙は開いてベッドに置いてあったので、

僕も見てしまいました。」

と告白すると、申し訳なさそうにした。

ダニエルは首を振り、

「さっきご本人からちゃんと謝罪がありましたよ。

届けていただきありがとうございます。オーナーに渡しますね。」

と言うと、にっこり笑い、マックスの出ていった方向をみて、

手紙を大事そうに胸ポケットにしまった。

 商店街でポスターを配っているカーターは、半分くらい配り終え、

インテリアショップの前に来ていた。

店頭には色違いのパステルカラーの椅子が置かれ、

そこにダルメシアンやペルシャ猫などの動物の置物が乗っている。

ピンク色の椅子にはフレンチブルドッグがちょこんと座っていて、

「うわー精巧だなぁ。」

と言いながら触ると、頭は温かく上目遣いになってペロンと手を舐めた。

「うわ!びっくりした!」

と思わずのけぞり、もう一度見ると椅子を降りて足元に来た。

「ミンちゃん!また登ってたんでしょ!」

と店主の女性が出てくると、その子は嬉しそうに駆け寄った。

「ごめんなさい。驚かせちゃいましたよね。

もうすぐオープン時間で色々用意してたらこんなところに。

最近好きでよくその椅子に登るんです。」

と言って、店主はほっぺにぷにっと指を当てた後、背中を撫でた。

「ははは、可愛いですね!ミンちゃんって言うんですか?」

と頭を撫でると、カーターのそばに来てちょこんと座った。

「ミントです。ミントだからミンちゃんって呼んでるんです。

あ、それ背中を撫でて欲しいんのサインです。ふふ。」

と笑うと、カーターは背中を一生懸命撫でた。

気持ちよさそうにどんどん上を向く様子に、

「ミンちゃんカッコいい人に撫でてもらってやったね!」

と言うと、カーターは照れながら優しく撫で続けた。

ミンちゃんは気持ちよさそうに横になると、

「ポスターですよね?」と女性が自転車を見て言い、

「あ!そうです!」

と慌てて立ちあがり、ポスターを取り出すと手渡した。

「ドレちゃん、イヴなのにまだ見つからないなんて可哀想で…、

毎日散歩中探しているんです。」

と言うと、どこに貼るか色々なところで試している。

カーターはしゃがみ、ミンちゃんを撫でながら頷いた。

「ここにしようかな。ここでいい?ミンちゃん?」

と言うと、ミンちゃんは女性の近くまで少し歩き、上を見た。

カーターも一緒に上を見ると、ミンちゃんは再びカーターのところへ戻り、

背中を向けた。

カーターは愛らしい姿に口元が緩んでいると、

「あ、ミンちゃんまたやってる!これエンドレスですよ!

お兄さん次行ってください!引き止めてすみません!

とりあえずお店の目立つところに貼っておきますね。」

と言ってミンちゃんを抱き寄せた。

「はい!お願いします…!じゃあまたね!ミントちゃん!」

と言うと自転車に戻った。カーターはチェックリストに印をつけると、

「あと30件!」

と言って気合を入れ直し、自転車を押した。

 ジャンポールは朝早くから作業場に入り浸り、エマのオーダーを作っていた。

あとは金具をつけるだけで完成だが、接着剤が乾くのを待っていた。

作業場のキッチンでお湯を沸かし、ミルでコーヒ豆を挽いていると、

接着剤のツンとした香りもかき消され、いい匂いが立ち込めた。

時計を見ると午前11時を回ったところだ。

ジャンポールは「もうすぐかな。」と言うと、デスクに座り窓を見た。

少し経った後カタカタと外で音がして、可愛い肉球が窓に現れ、

舌を出して嬉しそうな表情をしたボーダーコリーが現れた。

ジャンポールは窓を開けると

「やあライちゃん。今日も元気だね。」

と挨拶をした。いつもこの時間にお店の前を散歩するライちゃんは、

ジャンポールがいるとこうして手で優しく窓に触れ、

挨拶をしていく習慣があり、

飼い主のクロエが謝るというところまでがセットの、

午前中のルーティンとなっている。

「ジャンポールさんすみません!いつも邪魔してしまって。」

とクロエが言うと、

ジャンポールは窓越しにライちゃんの顔をわしゃわしゃと撫で、

「いえいえ、いつも楽しみにしているんですよ。」

と言ってにっこり笑った。

「よかったです。そう言って頂けて…。あれ、イヴもお仕事なんですね。」

と言うと、デスクの上の作品を覗き込んだ。

「それ、フレンチブルドッグのぬいぐるみですか!?可愛い!!

やっぱりマルフェットはフレブルですよね!人気出そう!」

と言うと、ジャンポールは頷き、

「これは可愛いお嬢さんのオーダーでね、

もうすぐ完成するところなんです。絵本の影響かな。

最近フレンチブルドッグを家族に迎えてる人が多くなってきましたね。

ところでクロエさんは今日はお休みかな?服装がいつもと違いますね。」

と言うと、クロエは弾けるような笑顔で、

「はい!休みです!今日実は、

この街に引っ越してきてから初めて念願が叶って、

教会でやる『イヴの朗読会』に参加するんです!

なのでいつもよりおしゃれしました!」

と嬉しそうに言った。

ライちゃんはクロエのテンションとは正反対に、

あくびをして耳の後をかいている。

ジャンポールは窓から身を乗り出し、

ライちゃんの痒そうなところをかいてやると、

「おぉ!そうでしたか。

人気があってなかなか入れないと聞いたことがありますよ。

良かったですね!そうか、今日は朗読会の日か。」

と言って頷くと、椅子に座り直し、時計を見た。

「朗読会、何時からでしたっけ?」

とジョセフ叔父さんから貰ったパンフレットを探しながら聞くと、

クロエは携帯画面を確認し、

「午後2時です!多分席は埋まっていますが、

外でも漏れて聞こえてくるって噂ですよ!」

と答えると、

突然沸かしていたケトルがハーモニカのような音を出して鳴り始めた。

ジャンポールは慌てて火を止め、すぐに戻ると、

「失礼しました。クロエさんライちゃん、引き止めてしまったね。

朗読会も楽しんでくださいね。気をつけていってらっしゃい。」

と言って微笑んだ。クロエはライちゃんのリードを短く握りなおし、

「こちらこそ長々とすみません!暖かいうちに散歩して来ちゃいます!

もし来られるんでしたら教会で!」

と言って手を振った。ジャンポールも笑顔で手を振り見送ると、

窓を閉めた。

接着剤が乾いたことを確認し、

キーホルダーの金具と綺麗な音の出る鈴をつけた。

赤いクリスマス用の可愛いギフトバッグに入れると、

緑と白の二色のリボンで縛り、

垂れたリボンの先をハサミの刃でなぞると、

くるくるっと巻いた形状が出来上がった。

「さあ、ルーシーちゃんの出来上がりだ。」

と言うとコーヒーを入れ、一息ついた。

マックスとジェームスはデローズ教会の近くにある、

コテージヴィレッジに来ていた。

ここには池を囲むように4戸のログハウスが建っていて、

近年人気が高い民泊施設だ。

バーベキューが出来る広場や共有のドッグランなども併設されており、

四季折々で楽しめるようになっている。

この時期は特に人気が高く、

インターネットの抽選で当たったものだけが泊まれるコテージだ。

ジェームスは専用の駐車場に車を停めると、トランクから荷物を運び始めた。

「今日はポカポカ陽気でよかったね。夜は急激に冷えて雪らしいけど。」

と空を見上げて言うと、先程からどこか沈んでいて、

車内でも一言も喋らなかったマックスは、

ただ一言、「うん」と言って、荷物をおろしていた。

ジェームスはその態度が気になったが、

マックス本人から何か話してくれるまで、待とうと決め、

敢えて普通の態度をとっていた。

ログハウスの中に入ると、そこにはクリスマスの装飾が施された、

お洒落なインテリアで統一されてあり、

壁に飾られたガーランドや、アーガイル柄のソファ、

木の年輪が見える大きなダイニングテーブルには豪華な燭台にキャンドルが置いてあり、

極め付けは、いかにもサンタがやって来そうな靴下が飾られた暖炉があった。

「うわー!想像以上だねマックス!ここで良かったよ!見てごらん!

引っ越す前の家にそっくりだよ!

ほら、大きな暖炉があるよ!」

と笑顔で言うと荷物を床に置き、カバンをゴソゴソと探り始めた。

布で包んである四角いものを出すと、テーブルに置き、

丁寧に布から取り出した。

「シンシアとレジーの写真は暖炉の上がやっぱり似合うな。」

と言いながら、亡き愛妻と愛猫の写真を飾った。

マックスは暖炉の側に行き、写真を見ると、

母親の顔が何か言いたそうに見えた。

「ごめんなさい…。」と小さな声で言うと、

必死にこらえてたまった涙のせいで、母親が頷いたように見えた。

ジェームスが2階を見に行っていると、

玄関の方でトントンとドアをノックする音がした。

「パパ!!誰か来たみたいだよ!」

と涙を服でぬぐい、マックスが大きな声で呼ぶと、

ジェームスは慌てて階段を降り、ドアを開けた。

「こんにちは。ようこそログハウスコテージへ!」

と赤いメガネをかけた膨よかな女性が、にっこり笑って立っていた。

「こんにちは!お世話になります!

チェックインですよね、どうすればいいですか?」

とジェームスが言うと、女性はバインダーに挟んである紙を見せ、

「こちらにサインをお願いします。鍵は予約の際に、

こちらからお渡ししたものだけが使えますので、

チェックアウトされる場合、または紛失した場合などは、

教会の向かいにあるコテージ管理事務所にお越しください。」

と手際よく説明すると、ジェームスは玄関にある靴箱の上でサインをした。

「はい、これで大丈夫でしょうか?」

とバインダーを返すと、

「ありがとうございます。

本日は午後2時から大聖堂で『虹の泉』の朗読会がございます。

コテージの利用者は優先で入れますのでこのチケットをご持参ください。」

と言ってチケットを渡すと、ジェームスは喜んだ。

「すごいです!これは嬉しいサービスですね!抽選で当たってよかった!」

と言ってマックスに手招きし、チケットを渡した。

「お昼はどこかに行かれますか?バーベキューをされるなら、

こちらでも食材をご用意できるサービスもありますが。」

と女性が言うと、ジェームスは少し考えたが、

「魅力的ですが、

お昼は観光も兼ねて商店街の方に行って食事しようと思っています。」

と言うと、女性はバインダーに何やらチェックマークを書くと、

「かしこまりました。いくつか注意点を申し上げます。

ここのコテージの奥に看板が立っているのですが、

その奥は虹の泉があるバラ園、

そしてさらに奥には通称『アリスの庭』に繋がる

少々草木が生い茂った通路がございます。

地元の方以外は迷われる方もいるので、入る際は気をつけてください。

アリスの庭には商店街から行く方が迷わず行けますので、

その際はパンフレットをご覧ください。

では、何かありましたらコテージ事務所までご相談ください。」

女性は息継ぎもしていないかのうように、早口で注意事項を伝えた。

ジェームスは圧倒されながらも、

「はい、ありがとうございます。」

と言うと、女性は再びバインダーにチェックマークを書き込み、

「では良いクリスマスをお過ごしください。」と言って帰って行った。

「アリスの庭だって。」

とジェームスが言うと、マックスは首を傾げ表情で返事をすると、

手に持った朗読会のチケットを見た。

「マックス、朗読会は行くよね?」

と少し不安そうにジェームスが聞くと、

「うん、お父さん行きたいんでしょ。」

とまるで親子の立場が逆転したかのような返事をした。

「あの絵本をやっぱり読んで欲しいんだよ。こんな機会はないからさ。」

と言うと、マックスは頷き、

「わかった。お昼前にちょっと30分だけ寝てもいい?」

とマックスが言うと、ジェームスは時計を見て、

「12時くらいまで寝てなさい。2階に素敵なベッドがあったから、

そこで眠るといいよ。時間になったら起こすね。」

と言って携帯のアラームを設定すると、暖炉の上のシンシアを見つめた。

ふとニナにもらったマフィンを思い出し、

商店街に行ったらお店にお礼を言いに行こうと決めた。

マックスはぬいぐるみを持ち、階段を登って2階に行くと、

2部屋のベッドルームがあり、

バスルームやトイレも一階と同じ場所に備え付けてあった。

マックスは階段を上がってすぐの部屋を開けてみると、

その部屋はかつて母親がいた頃に住んでいた家の、

両親の寝室に似ていた。

壁紙は淡いブルーグリーン、

家具はマホガニーで出来たシックなインテリアで揃え、

大きなベッドが置いてあった。

マックスはドアを閉め、もう一つの部屋を覗くと、

なんだか不思議な感覚を覚えた。

水色と白のストライプの壁紙に、大きな窓からは光が差し込み、

ベージュのラグが敷き詰められていて、

何故か優しい気持ちに包まれた。

マックスはまるで、その部屋にいざなわれるように中へ入ると、

ベッドに横たわった。

明るいと眠れないマックスには珍しく、

カーテンも閉めずに心地よい光に身を任せた。

「レジー、少し寝よう。」

と枕元にぬいぐるみを置くと、目を瞑りすぐに眠りに落ちた。

池の反対側のログハウスでは、エマと両親が出かける用意をしていた。

「今日は何処かでお昼を食べてから、ジャンポールトイショップに行こうか。」

と父親が提案すると、母親はエマにコートを着させながら、

「そうね!この辺にも商店街にも、たくさん美味しそうなお店があったから、

見ながら選ぶのもいいかも。」

と言ってエマの髪の毛を整えた。

「すぐそこのパン屋さん!美味しくて好き!」

とエマが言うと、両親は唐突なエマの発言に笑った。

「エマは本当にあのパン屋さんが大好きね!

帰りにまたベーグルでも買いましょうか。」

と母親が言うと、エマはぴょんぴょんとジャンプして喜んだ。

父親がドアを開けて外を見ると、

「向かいのログハウス、人が来たみたいだね。車が停まっているよ。

いいなぁ。あそこ狙ってたんだよ。

でも24日からしか空いてなくてね。ここも新しくていいけど、

あそこだけは昔からあって、歴史があるみたいなんだよ。」

と言うと、エマを抱っこした。母親も玄関を出て向かいを見ると、

「あら、ここだって抽選で当たったんじゃない!

私はここに泊まれて感謝してる。」

と言って父親の背中をポンと触ると、エマも「私も!ここ大好き!」

とウィンクして車の方へ向かった。

父親は嬉しそうに微笑むと後を追った