第十一話「虹の泉の原点」

デローズ教会の大聖堂は、

もうすぐ始まる朗読会に参加する人が集まり始めると、

チケットに書かれた席に着き、ジョセフ牧師の登場を待っていた。

エマやマックスたちも席につくと、ニナが扉が閉まるギリギリのところで入り、

関係者席の方へ移動した。

大聖堂の壁にかかっている時計が午後2時を指すと、

聖堂内に壮大なパイプオルガンの音色が響いた。

牧師が入ってくると、ゆっくりと歩き講壇についた。

パイプオルガンの音色がやむと、牧師はマイクを取り、話し始めた。

「ではこれより、イヴの朗読会を始めます。

みなさん、今日は日曜日のような説教ではありません。

自由な姿勢で聞いてくださって大丈夫です。あぐらは困りますけどね。」

とウィンクしながら言うと、

会場は温かい笑い声が響いた。

牧師は古い原稿用紙を取り出すと、

顔の前に出し、左右に方向を変えながら見せた。

「今から読む絵本は、私の歳の離れた兄のジャンクロードが書いた絵本で、

この教会のすぐ近くに暮らしていた時に書かれました。

今ではこの絵本『虹の泉』は、このマルフェットのお里から飛び出し、

海外にまで広く知られるようになりました。

私はこの絵本を毎年読んできましたが、昨日のことのように思い出す、

実話が元になっています。この物語を最愛なる小さな天使、アレックスに捧げます。」

と言うと、大聖堂は窓が閉められ、全体が暗くなり、

昼にもかかわらず、映画館のような雰囲気になった。

大聖堂の中に大きな布が張られ、

そこにプロジェクターで絵本が映し出されると、参加している客からは、

驚きと歓声が上がった。エマもワクワクしながら両親の手を握った。

マックスはジェームスの顔を見つめると、ジェームスはにっこり笑った。

「それでは始めましょう。『虹の泉』

昔あるところに、心の優しいジャンと、

元気いっぱいのやんちゃ坊主のフィル、そして

二人には小さな家族であり、親友の【アレックス】と言う犬がいました。」

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 「2時か、今年もジョセフ叔父さんが絵本を読んでいる頃かな。」

とジャンポールが言うと、フィリップは時計を見て、

コーヒーの入っているカップにミルクと砂糖をたっぷり入れると、

「僕は本当は聞きたいよ。ジョセフの朗読。」

と言ってジャンポールに拗ねた顔をして一口飲んだ。

レオンは大量の戦利品を椅子の背中におき、カードをしまうと、神妙な顔をして、

「フィリップはジャンポールがこの街に帰ってきてから、

朗読会に行ってないんだろう?こうして僕と3人でポーカーしてる訳だし。

やっぱり本人は行きづらいものなのかね?」

と言うと、ジャンポールは遠い目をしている。

フィリップはジャンポールを見ると、

「多分悲しい思い出を、くっきりと思い出すからじゃないかなぁ。」

と言うと、ジャンポールの肩をつついた。

ジャンポールは濃く入れてもらったコーヒーを飲むと、

「いや今年は大丈夫そうだったんだけど、気恥ずかしくてね。

それと、

レオンとフィリップとこうして3人でポーカーをするのは本当に楽しいから。」

と言ってにっこり笑った。

レオンは「そうか」と言うように何度も顔を縦に揺らすと、

「実は僕も行ったことが無いんだよ。

詳しい話を聞けるって言うのが人気の朗読会でしょう?

だったら朗読会に行けない、可哀想な僕に当事者からどうだったか聞いてもいいのかな?」

と言うと、フィリップは

「いいよ!」と言ってジャンポールを見た。

「いいけど、僕は話すのが苦手だから、フィリップもフォローしてくれよ。」

とジャンポールが言うと、フィリップは膝を叩いて「任せろ!」

と言った。フィリップはジャンポールに「さあ!」と急かすと、

ジャンポールは、自らは誰にも話したことのない大好きな愛犬の話を始めた。

「ではデローズ教会の息子のジャンという少年のお話。始まります。」

とフィリップが茶化しながら言うと、レオンはリリーとニコを呼び、

ジャンポールはコホンと声を整えると、ゆっくり語り始めた。

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それはジャンポールが子供の頃の話だった。

いつも何をするのでも一緒の、お花が大好きな優しい愛犬、アレックス。

ジャンポールは生まれてからずっと一緒で、

親友のフィリップと3人で居ることが当たり前だった。

ジャンポールの父親の教会は綺麗な天然の泉が湧くことで知られていて、

毎年クリスマスの時期になると泉が満たされ、

教会の噴水にも水が流れることで知られていた。

だがここ2年の間は泉は枯れてしまい、

噴水も水が出なくなってしまって、原因は分からず、両親は悩んでいた。

アレックスは12歳、フレンチブルドッグの男の子で、

短頭種では長生きと言われる年齢だ。

10歳のジャンポールよりも先に生まれ、兄弟のように、

時には父親のように居てくれる存在だ。

最近は動くのもゆっくりになってきていることに、ジャンポールは心配していた。

「最近お散歩もあまり行かなくなっちゃったね

すぐ疲れるようになったみたい。どうしよう、

お母さん。アレックス、いなくなっちゃうのかな。もう最近寝てばかりだよ。」

とジャンポールは母親に言うと、

「ジャン、悲しいことだけど、

命あるものはいつかはお空に帰ってしまう日がくるの。

でもね、ずっとずっと最後の日まで一緒に居て、たくさん愛する。

それが唯一私たちが出来ることだと思っているの。」

ジャンポールは納得がいかない様子で、

「やだよ。絶対いなくなって欲しく無いもん。」

と言うと、母親はジャンポールを抱きしめ、

「そうだね。お母さんもいやだもの。ずっと一緒にいたいものね。

でもねジャン、旅立つ日はアレックスが決めることなのかもしれないわ。

お母さんね、動物は自分で最後の日を決めてるんじゃないかって、

そう思うことがあるのよ。」

とジャンポールの髪を撫でると、

「いやだよ。まだまだ長く一緒にいたいよ。

頼むよアレックス。

アレックスがいないなん考えたくないよ」

と言ってしがみつくジャンポールに、母親はギュッと抱きしめ、

「そうねアレックスもそう思ってるわよ。」

と言って、アレックスにキスをした。

この日以来何をするのにも

アレックスのそばを離れないと決めたジャンポールは、

ある日、興奮しながら、

「お母さん!今日もちょっとフィリップと行ってくる!」

と今にも走り出しそうになっているジャンポールに、

「どこに?」

と聞くと、

「内緒の場所!アレックスも一緒に!」

と言ってアレックスを抱っこすると、玄関に直行していた。

「アレックスはもうおじいちゃんだからあんまり無理させないでよ!!」

と言うと、

「はーい!!」

とジャンポールは素直に返事をした。

毎日のように3人で外に出かける日々が続き、

アレックスも嬉しそうにしていたが、作っている秘密基地が完成した頃、

アレックスはもう寝てばかりいて、あまり一緒には出かけられなくなっていた。

「アレックス!完成したんだよ!

見に行こう!ほら散歩だよ!アレックス!」

と言ってフィリップとジャンポールはアレックスを迎えにくると、

動こうとしないアレックスに、

悲しそうな顔をする二人を見た母親が

「どうしたの?」

と聞いた。

「最近全然動かないんだよ。」

とジャンポールが言うと、

「そうね、今はお散歩より日向ぼっこが好きみたいね。」

と答えると、

「アレックス、オナラばっかりして全く遊んでくれないんだ」

と言うフィリップに、

「ふふ、オナラは昔からよ。」

と微笑むと、母親はアレックスを優しく撫でた。

ジャンポールとフィリップはアレックスのお腹におでこを当てると、

悲しい顔をした。

「アレックス心配になっちゃうよ。あんなに走るのも、

お外も大好きだったのに」

と言うと、母親は必死でフォローし、

「そうね、今はもしかしたら、いざ走るときのために、

充電してるのかもしれないわよ?」

と言うと、二人は

「なら良いけどさ」

と言って悲しそうにうなだれた。

それから数日後大雨が降り、秘密基地がどうなっているか心配で、

様子をジャンポールが見に行くと、3人の秘密基地に、

どこからか逃げたであろう長毛の猫が、お産をして子育てをしているのを見つけた。

「フィリップ!フィリーップ!大変だよ!タオルか何かないかな!」

と焦って言うジャンポールに、

フィリップは理由も聞かず、

「よしまかせろ!」

とたくさん高級なタオルを持ってきてくれた。

「うわ!猫の赤ちゃん!」

と秘密基地についてびっくりしたフィリップが言うと、ジャンポールは頷き、

「みんな濡れてて寒そうなんだ。」

と言った。二人はタオルでくるんであげると、可愛い猫たちに見惚れた。

「フィリップ、どうしよう。この子達ここで大丈夫かな。

おうちに連れて帰るかい?」

と聞くと、

「うーん、パパ許してくれるかな。とりあえず相談して明日またこようかな。

ここはあったかいしね!」

と言って二人は帰った。

次の日のクリスマスイヴ、大雪の予報が出ていたが、

二人は朝方に補強をしようと、秘密基地の様子を見に行った。

フィリップが中を覗くと、タオルに血が所々ついていて、

よく見ると親猫の足が血だらけになっていた。

怪我しながらもお乳をあげ、子猫を必死に舐めている姿に二人は心配し、

大人に話そうと決めた。ジャンポールは父親のいる教会に助けを求め、

秘密基地から箱に入れて猫を連れてくると、

大急ぎで獣医さんに行くことになった。

優しい獣医さんは、

「もしかしたら、大きな鳥か他の動物に足を噛まれたのかもしれないね。」

と親猫の治療をしてくれた。

一緒に連れて行った衰弱している子猫は預かると言ってくれて、

親猫をジャンポールの家で一旦引き取ることになった。

「お父さん、この子ずっと寝てるね。

何も食べないから心配だよ。

にゃあにゃあ言うのに食べないんだよ」

と言うと、

「子猫を探してるのかもしれないね」

と父親が答え、ジャンポールは心配そうに猫を見つめた。

イヴの日はすることが山ほどあり、

教会から少し離れた自宅にも荷物がたくさん運ばれてきていた。

ジャンポールと母親は、大きな荷物を運び入れるのに苦戦し、

ドアが開きっぱなしになってしまっていた。

母親が何か道具を持ってくると言って猫のいる居間を開けた瞬間、

寝ていた猫が目を覚ますと、開いてるドアに一直線に怪我した足のまま走って出て行ってしまった。

「ああ!猫ちゃん待って!どこ行くの!!」

とジャンポールは焦って猫を追いかけるが、

見失ってしまった。

そうだきっと秘密基地だ!と思いつくと、そこに向かった。

秘密基地につくと、親猫が立ちすくむようにいた。

巻いていた包帯が外れ、血がポタポタとそこらじゅうに落ちていた。

日も落ちてきて、雪が降り始めた。

ジャンポールは猫を捕まえようと必死だったが、奥の方に逃げ込んでしまい、手が届かなかった。

外では風の音も聞こえ始め、どんどん寒くなる気配がした。

ジャンポールは猫がどこかへ行かないように秘密基地のドアを閉め、なんとかここで捕まえようとしたが、

時間だけが過ぎて行き、

猫は怯えてこっちを見たまま、出てきてくれなかった。

猫が後ろを向いた瞬間、尻尾がこっちを向き、チャンスが来た。

「赤ちゃんはここにはいないんだよ。一緒に帰ろう」と言い、

必死に手を伸ばすと、尻尾を掴んだ。

猫のためだと思って強引に引っ張り、抵抗されながらも抱っこすると、

やっと捕まえられたことに安心した。

いざドアを開けようと押すと、

ドアが開かないことに気づいた。

急激に降った雪により、

入り口が埋れてしまってドアから出られなくなってしまったようだ。

「どうしよう開かない!」

と焦って呼吸が荒くなっていく。

「フィリーップ!お父さーん!おかあさーーん!アレーーックス!」

と叫ぶが何も反応がなかった。

母親は突如いなくなり、帰ってこないジャンポールを心配して、

イヴのミサの用意をしている父親とその弟もにも相談し、

キャンドル礼拝に来ていた人も手伝ってくれることになり、

大雪の中ジャンポールの捜索が始まった。

母親は探しに行きたかったが、もしジャンポールが帰ってきたら、

又は何か連絡が来た時のために、電話番として待っていなさいと言われ、

母親はもどかしい気持ちと不安な気持ちのまま、アレックスと家で待っていた。

しばらくしてドアのチャイムが鳴り、

「ジャン!?帰ってきたの!?」

と急いでドアを開けると、

泣きじゃくったフィリップと

心配そうな顔のフィリップの父親が立っていた。

「息子にジャンがいなくなったと話したら、

もしかしたら居場所を知ってるかもしれないと言うから、

一回一緒に行ったんだけど、

フィリップもこの雪じゃなかなかわからないようで、

泣いてしまって…。もしかしたらジャンは戻っているかもと思って、

確認のために来たのだけど…」

とフィリップの父親が焦って話していると、

フィリップは大声で泣き始めた。

「ごめんなさい!僕…道が分からなくて!

ジャンが死んじゃったらどうしよう!うわぁぁぁぁん!」

母親はフィリップの肩に手を置くと、

フィリップの泣く声を聞きつけた

アレックスが、いつも寝ているソファから飛び起き、

玄関に出てきた。

「アレックス!ジャンが!」

とフィリップが泣きながら抱きつくと、

アレックスはフィリップの腕から出て走り出した。

「アレックス!?」

と母親が叫ぶと、

フィリップとフィリップの父親もアレックスを追いかけた。

大雪の中、今まで動こうとしなかったアレックスは、

必死で走っていく。

フィリップは

「アレックス待って!待ってったら!」

と言いながら後を追いかけている。

あたりは雪で全く見えないのにアレックスは一直線だ。

大人も必死でついていき、

アレックスが止まってうろうろし始めたところがあった。

やがて雪も少しずつ小降りになってきた頃、

フィリップが雪をかき分けて目印の旗を見つけた。

「やっぱり僕たちの秘密基地だ!

アレックスすごいよ!!

パパ!雪で埋もれてるけど旗が見えるからここにいるかも!」

と言うと、

「わかったドアはここだね?ここを掘ろう!」

と言って、必死に掘り始めた。

やがて母親も追いつくと、

アレックスはずっと心配そうにうろうろしている。

「アレックスわかるの?ジャンはここ!?ここにいるの?」

と言いながら母親はアレックスを抱っこして温めると、

他に探しに行ってたジャンポールの父親と弟のジョセフも到着し、

みんなで掘り始めた。ようやくドアが見えた頃、

「誰かいるの?助けて!空気が薄いよ!」

と必死の声が聞こえ、大勢でドアを引っ張り、

やっとの思いで開けると、

猫を大事そうに抱えたジャンが泣きながら出てきた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

と言って猫にひっかかれながらも必死に守り、

抱っこしているジャンポールを見て、

「ジャンよかった!!!」

と父親が抱きしめた。

フィリップも泣きじゃくりながら、

「ジャン!ごめんね!僕、道わからなくて、

でもアレックスが走って…。ごめんね!」

と泣きながら謝り抱きしめると、

ジャンポールはアレックスを抱いて泣いている母親をみた。

「アレックス!!きてくれたのかい!?歩けたのかい?」

と母親とアレックスをぎゅうっと抱きしめた。

ジャンポールは猫を父親に預け、アレックスを抱きながら歩いて戻る帰り道、

クリスマスキャロルが教会から聞こえてきた。

「アレックス、疲れただろう。早く帰ろうね。ごめんね。」

とジャンポールは言うと、フィリップは何度も

「アレックスありがとう。ジャンごめんね。」

と言って家に戻って行った。

無事に家に帰ると、

お風呂を出たジャンは、暖炉の前ですやすや眠るアレックスを抱き寄せ、

一緒に毛布にくるまってあっため合った。

「アレックスありがとう。見つけてくれたんだってね。

いっぱい走ったんでしょう?君は僕のヒーローだよ。大好きだよ」

と言って何度もキスをした。

薄目を開けてペロペロと顔を舐めて答えるアレックスを何度も抱きしめ、

この日は朝まで一緒に寝ていた。

クリスマスを迎えた早朝、まだ薄暗い外とは正反対に、

優しい光が立ち込めていた。

「ねえ、ジャン、起きて。

僕の声聞こえる?大事な話があるんだ。

ジャン、僕の器はもう限界みたいだ。

もう行かないといけないけど、

絶対にまた帰ってくるから、

約束してほしいことがあるんだ」

「アレックスどうしたの?言葉が喋れるの?」

とジャンポールは目を擦った。

「ジャン、よーく聞くんだよ。僕の名前を書いてお花を浮かべて、

泉に流してくれる?

そしてその水を小瓶に汲んでずっと大事に持って置いて欲しいんだ。

絶対だよ。僕を忘れないで。楽しい時の僕をずっと覚えててね。」

とアレックスがじっと目を見て語りかけていた。

ジャンはカーテンの隙間から漏れる朝日に目を覚まし、

抱きしめて寝ていたアレックスを抱き寄せた。

いつものあったかい感覚ではなく、アレックスは動かなくなっていた。

ジャンポールは階段を静かに降り、朝食の支度をしている母親に、

おはようと言われる前に抱きついた。

「アレックスね、行っちゃったよ。」

と必死に涙を堪えて報告した。

母親は「そう…」と声を出すと、鼻をすすりながら抱きしめる腕が強くなった。

父親が早朝のクリスマス礼拝の準備を終え、新聞を取り、家に戻ってきたが、

2人の光景を見て察した顔をする。

「父さん、アレックスが…」

と言うとボロボロと涙が流れ、我慢したものが一気に出てきたのか、

10歳のジャンポールは赤ちゃんのように泣いた。

父親は「おいで」といって抱きしめると、

父親も目頭を熱くしながら、ジャンの肩をポンと触れ、涙を拭った。

「アレックスに会いに行こう。」

と言ってジャンの部屋に行った。

父親はまるで、ただ寝ているかのようなアレックスをみて、

涙を堪えながら優しく体を撫でている。

「ジャン、アレックスは幸せだったね。

見てごらんよこの誇らしそうで、満たされた表情、

まるで笑ってるみたいだよ。」

と言うとアレックスの額にキスをした。

ジャンは父親の隣でアレックスの身体を撫でながら、

「ありがとうアレックス。今年のクリスマスも一緒に居れたね。

メリークリスマス。アレックス。」といってギュッと抱きしめた。

母親も涙を流しながら、

「ありがとうアレックス。ジャンを守ってくれて。

あなたは本当に天使だわ。またうちに帰ってきてねアレックス絶対よ」

と言った。

ジャンポールは涙を流しながらも、

「アレックスは帰ってくるよ。絶対。不思議な夢を見たんだ。

約束したことがあるから、忘れないうちにやらないといけないんだ。

大好きなお花で送ってあげよう。」

と言って、パジャマのままいつも一緒に遊んでいた泉に向かった。

「母さん父さん見て!すごいや!

泉が水で満たされてるよ!泉が戻ったんだ!きっとアレックスだよ!」

と言うと、夢の話を両親にした。

夢で約束した通り、ジャンポールは

泉にたくさんのお花を浮かべた。

アレックスのように白い色をした大きな薔薇の花びらに

アレックスと書いて浮かべると、

「本当に戻ってくるのかな」

とジャンポールが言うと、

「絶対戻ってくるわ。だってアレックスよ。」

と母親が言うと、

「信じよう。」

と父親がジャンポールの頭を撫でた。

「うん」

と言うと小瓶に水を汲み玄関に飾った。

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ジャンポールとフィリップが話し終えると、

レオンとリリーの目には涙があふれていた。

レオンは涙を見られないように、すぐに目を逸らし、

ニコの背中に顔を擦り付けて誤魔化すと、

リリーはそれを見て涙を拭きながら笑った。

ジャンポールも思い出しながら、目に涙をためていた。

フィリップはボロボロ泣きながら話していたが、しんみりした空気を吹き飛ばすように、

「絵本では最後にアレックスの

「ただいま」という戻ってきた表現でしめられてるんだけどね、

ジャンポールはこの数年後に小瓶を失くしてるんです!」

と衝撃の事実をさらっと言い、

「えーーーー!!」

と夫婦がびっくりするリアクションに満足すると、

フィリップは続けた。

「すごいのは、他の人はこのアレックスの教えてくれた方法で、

運命の子に再び出会えているんだよ。

当のジャンポールはずっと迎えられないでいたんだけどね。

なんとも難儀なことだよ。あれから50年以上だよ!」

と言った。

ジャンポールはコーヒーを一口飲み、フィリップを見て頷くと、

「今でもあの幼い子供のような声を覚えているよ。

あの夢は動物を家族として

本当に大事にしている人へのメッセージだと思うんだ。

きっと別れた後も、“ずっと一緒にいたことを覚えていて欲しい、

悲しみだけ感じて塞ぎ込まないでほしい、楽しい思い出を大事にしてほしい、

そうしたら帰れるからね“って事なんだと思うんだよ。

僕はずいぶんと悲しい時間を過ごしたけど、塞ぎ込んだわけではないんだ。

約束したしね。でもアレックスを迎えるなら、

この街以外はしっくりこなかったのかもしれない。

3年前に帰ってきて本当に良かったよ。」

と言うと、コーヒーをもう一口飲んだ。

フィリップは首を右斜めに倒して相槌を打つと、

砂糖をまた入れながら混ぜ始め、

「君の両親が亡くなった時に、実は帰ってくると勝手に思っていたよ。

そしてアレックスもね。教会の牧師を継ぐんだと思っていたから。

でも今は時間かかったけど、戻ってきてくれて本当に嬉しいよ。

そして今年は特にね!」

と言うと一気に飲んだ。

「そういえば昔のマルフェットって、

そこまで動物に寛容じゃなかったんでしたっけ?」

とリリーが聞くと、

フィリップとジャンポールは同時に頷いた。

フィリップは思い出しながら難しい顔をし、

「やっぱり動物だからね。イレギュラーなことをするし、

トラブルが起きたらどうするかとか、その辺のことは当たり前だけど、

普通の街と変わらなかったよ。

今は商店街どこでも行けるけど、

当時は入れないお店が殆どでさ。」

と言うと、リリーはレオンと目をあわせ、

「すごい意外!今のマルフェットからは想像できない!」

と言うとフィリップは頷き、続けた。

「まずお店に看板犬や猫が居ることはなかったね。

今は適性検査や試験を受かった子だけが許可されてるけど、

それでもほとんどのお店で看板動物がいるだろう?

それは人間側も努力をした結果かもしれないね。あ、ニコもそうだしね!」

と言うとニコにウィンクした。

レオンは顎を触りながら頷き、

「ここに引っ越してきて思ったのは、

動物も人間もトラブルで悲しい思いをしないように、

ルールが徹底しているなぁってことだよ。動物を家族に持っている身としては、

本当に暮らしやすいよ。細かい点まで決まっていて、

それに対応した保険もあって、

この街で共生がうまくいってるのはそう言う成果だろうね。

動物トラブル専門の弁護士とか、この街の動物医療保険、

あとは自治体の無料で受けられるマナーやしつけ訪問教室とかね。」

と言うと、フィリップは激しく頷くと、

「53年前のジャンポールのこの事件以来、新聞でも取り上げられて、

絵本もできて、この街に動物好きが集まったのが何より大きいと思うよ。

やっぱり理解のある人が住んでるのは大きい。

動物が苦手なのは全く悪いことじゃないけど、

そう言う人には暮らしにくくなって、自然と引越して行くしね。

そして既にこの街は動物と暮らす事に特化してるし、

それで経済が回ってるしね。」

と真面目な顔で言うと、空のカップを見せた。

「さあ、そろそろホテルに戻るかな。ホテルに休みはないからね!

クリスマスキャロルまで働くぞ!」

と言うと、カバンを持ち、立ち上がった。ジャンポールも続くと、

「レオン、リリー今年もありがとう。

君たちが引っ越してきてくれてよかったよ!ニコもね!」

言い、フィリップも頷くと、

「ニコ!!!本当にそうでちゅよ!」

と言ってレオンの膝の上にいるニコをわしゃわしゃと撫でた。

「こちらこそありがとう!イヴだから4時で閉めて、

あとはニコとゆっくりするよ。

今日は貴重なお話とたくさんの戦利品ありがとう!」と言うとニヤッと笑った。

リリーはニコを抱っこして微笑みながら手を振った。

ジャンポールは店を出ると、フィリップに紙袋を渡した。

「お!今年は何だろうなー!」

と言いながら受け取るフィリップに、

「明日開けるんだよ。今日は我慢して明日にね。」

と念を押した。フィリップは口をとんがらせたが、

「へいへい!僕のは持ち運べなかったから後でね!

クリスマスキャロルの時に!」

と含みを持たせて言うと手を振り、お互いの車に乗りこんだ。

途中まで一緒の道路を走り、フィリップが前を走っていたが、

ホテルに左折して帰る際、ウィンドウを開け手だけで挨拶した。

ジャンポールも窓越しに手をあげると、ニナを迎えにデローズ教会に向かった。